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「万年筆」欄より
まんねんふでらんより
作品ID61018
著者寺田 寅彦
文字遣い新字新仮名
底本 「寺田寅彦全集 第十二巻」 岩波書店
1997(平成9)年11月21日
初出「東京朝日新聞」1908(明治41)年8月28日、30日、9月6日、7日、16日
入力者砂場清隆
校正者木下聡
公開 / 更新2022-06-29 / 2022-05-27
長さの目安約 3 ページ(500字/頁で計算)

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本文より


電話で説教

 近頃北米テキサス州のフォートウォースという町で電話を使って説教した牧師がある。自分の受持の寺院で大勢の聴衆に対して説教すると、その声は同時に電話で市中の各所へ配布された。その配布先は飲食店が五、六軒、商館が十二、三軒、私宅が五百軒ばかりと役所が二十箇所ほどであった。
(明治四十一年八月二十八日『東京朝日新聞』)

クロロホルムの作用

 近頃英国で犬にクロロホルムを種々な方法で与えてその作用を試験した人がある。この薬剤を飲ませまた皮下に注射すると肝臓の機能を害して中毒の症状を起すが、その蒸気を呼吸させると体内の蛋白質の分解を促し却って肝臓の機能を興奮させる。その訳は肺臓へ吸入されたのは速やかに吸収され速やかに排出されるが、その他の方法で与えたものは長く肝臓に停滞するためであるとの事である。
(明治四十一年八月三十日『東京朝日新聞』)

発電所は難破船

 メキシコの南隣グァテマラの西海岸の一小市で近頃電灯を点ずるようになったが、その中央発電所は同市の海岸近くに坐洲したドイツの汽船である。この船は砂の中へ深く埋れて引卸しの見込みはないが、幸いにその船中に備付けの発電機と一つの汽缶とが無事であったからそのままこれを利用し、海岸まで線を引いて市中を照らしているそうな。

軽い双眼鏡

 今度ロンドンのネグレッチ・アンド・ザンブラで売り出した新形の双眼鏡「ミニム」というのは従来の双眼鏡中で最も軽いものである、その倍率は八倍で重量七十五匁くらい、柔らかい皮袋に入れて隠袋に収めるように出来ている。
(明治四十一年九月六日『東京朝日新聞』)

狐と鱗片

 四足獣で鱗のあるものは珍しい。せんざんこう、蟻食いの類に過ぎぬ。尤も鼠の尻尾も一種の鱗片で蔽われているし、その他身体の一部に多少の鱗片あるものはあるが、狐の先祖が鱗片を着けていたという説は新しい。この説を出したのはウィンナの人である。若い狐の毛皮を詳しく調べてみると、その毛の生え方が一種特別で数本ずつ束になって一定の間隙を置いて生じている。その皮膚は丁度せんざんこうの鱗片を剥がした跡に酷似しているという。
(明治四十一年九月七日『東京朝日新聞』)

空中飛行の将来

 フランスから英国まで海を超えて飛行する事の出来たものには一千ポンドの賞金を与えると申し出した人がある。一昨年の暮にサント・ジュモンが始めて成効した時に飛んだ距離はわずかに二十五メートルであったが、この頃ファーマンやドラグランジュの飛行した距離は二万メートルに近く、すなわちわずか二年の間に飛行距離は八百倍になった訳である。この割で進歩すれば海峡を横断するくらいは遠からず出来るだろうと思われる。
(明治四十一年九月十六日『東京朝日新聞』)



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