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雪の話
ゆきのはなし
作品ID61020
著者寺田 寅彦
文字遣い新字新仮名
底本 「寺田寅彦全集 第十二巻」 岩波書店
1997(平成9)年11月21日
初出「東京朝日新聞」1908(明治41)年4月10日
入力者砂場清隆
校正者木下聡
公開 / 更新2021-12-31 / 2021-11-27
長さの目安約 4 ページ(500字/頁で計算)

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本文より

 雪の降るのを飛絮の如しとか鵞毛の如しとか形容するは面白いが科学的ではない。

雪の形

 試みに降る雪の一片を帽子なり袖なりに受けて細かに験査して見れば、綿や毛のようなものではない規則正しい六稜形の結晶を成している事がわかる。肉眼ではこれ以上の事は分りかねるが、一度顕微鏡下に照らしてこの小さい雪片を見れば誰しもその美しさに驚かぬ人はあるまい。いずれも六稜あるいは稀に三角形の氷の薄片であるが、その規則正しい輪郭は千変万化で如何なる美術家でもこれだけの変った形を作る事は出来そうにもない。輪郭の美しいばかりではない、この氷片中に縦横に細い溝が規則正しく通って様々の紋理を見せている。もし物好きな人があってこの模様を散らした着物でも作ればきっと面白い物が出来るだろうと思われる。この結晶の形については昔からずいぶん多数の人が研究したものであるが、近頃アメリカの人で二十年の月日をこの研究に委ね数百種の結晶の写真を集めた者がある。そしてその雪の降る時の天候や雪雲の高さまたは風向などによって結晶の形に如何なる相違があるかというような事を比較研究し、斯学の上に少なからぬ貢献をしたと称せられている。

雪はどうして出来るか

 雪はどうして出来るものかという事は誰も知りたく思う事である。これはつまり比較的暖かい地上近くの空気が温気を含んだままで気流につれて上昇し、高層の気圧の低い処へ行くに従って膨脹して冷えて来る、ある処まで行くと雲と凝り雨になってしまう事もあるが、ごく寒い時にはこれが直ちに凍って小さい雪片となりこれが次第次第に大きく生長する。雪片のごく大きいのは時として直径一寸ほどになる事がある。こういう薄片が沢山に集合したのがいわゆる鵞毛となって舞い下りて来るのである。こんなに雪片がくっつき合っているのはつまり寒気がさほどひどくなくて雪片が温まっているからなので、ごくごく寒い摂氏零度以下二十余度にもなるともはや雪片に湿り気がなく従ってみんなバラバラに粉のようになってしまう。それからなお一層寒い時また軽気球などでごく高い空中に昇ると、時として針のような細長い雪がキラキラと降るを見る事があるそうな。
 空中で雪の始めて出来る処の高さは土地によって非常の差があって、例えば南米のアンデス山あたりでは一万八千尺ほどの処にあるが極北に近くなれば千尺くらいの処もある。

雪雲

 天気のよい日、空際遥かに真白な雲が刷毛ではいたようにあるいは細かい鱗のように棚引いている事がある、あの雲は普通の低い雲とはちがって皆雪片から出来ているという。また寒中などに太陽のまわりに暈が出来てその輪の横に光った処が出来、あたかも日が二つも三つも現われたように見える事がある、あれもやはり空中の雪片が太陽の光を曲げあるいは反射するために起る現象である。

雪と水との量の差異

 降り積もった雪を一時に解かして水…

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