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ランプのいろいろ
ランプのいろいろ
作品ID61022
著者寺田 寅彦
文字遣い新字新仮名
底本 「寺田寅彦全集 第十二巻」 岩波書店
1997(平成9)年11月21日
初出「東京朝日新聞」1907(明治40)年7月15日・16日
入力者砂場清隆
校正者木下聡
公開 / 更新2022-05-25 / 2022-04-27
長さの目安約 7 ページ(500字/頁で計算)

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本文より



 わずか数十年前の夜と今の夜とを比べると、正に夜と昼ほどの相違である。博覧会のイルミネーションを観て昔の行灯時代の事を想えば、今更のように灯火の進歩に驚かれる。
 瓦斯灯でも従来の魚尾形をした裸火はだんだんにすたれて、白熱瓦斯、すなわちウェルスバッハ・マントルに圧倒されて来た。今日では場末の荒物屋芋屋でもこれを使っている。あのいわゆるマントルは布片にソリウム及びセリウムと名づける元素の化合物を浸したもので、これを瓦斯口の上に着せ火を点ければ、植物質は焼けてソリアの灰の網が出来る。これが瓦斯の焔に触れると真白な強い光を出す。近頃はまた瓦斯を下向きに噴き出して、普通電灯のように下方を照らすヤコブ灯というのが出来た。ちょっと見ると電灯かと思わせる。マントルについて一つ不思議な事は、これに浸す薬品がソリウムばかりでもまたセリウムばかりでも一向光らぬ、ただ前者の中に後者のごく微量を加えると、始めてあんな強い光を出す事である。
 アセチリン瓦斯も光が強いので、自転車のランプ、活動幻灯等に用いられているが、瓦斯の悪臭が如何にもいやなので、家庭用には面白くない。この瓦斯はカーバイドと称える人造の石塊に水をかければ発生するから、使用は軽便である。この原料を作るには水力電気を用いる。
 次に昔から強い光を得るために用いたドラモンド灯というものがある。酸素と水素あるいは灯用瓦斯と混じた焔を石灰の塊に吹き付けると眩しいような光を出す。また石灰の代りにザーコンというものを使ったのもあるが、これらは普通の灯用には用いられぬ。
 夜間写真などに金属元素マグネシウムの粉を燃やす事があるが、あれはただ短時間強い光を出すだけで、灯用にはならぬ。
 次には電灯であるが、一口に電灯と云っても今日では非常に種類が多くなった。先ず従来誰でも知っている白熱灯と弧灯でもずいぶんいろんなものがある。弧灯では、二本の炭の棒の尖端の間に強い電流を送ると、炭が摂氏三千五百度ほどに高熱して、その焔が弧状をなして炭の棒の間に橋を渡すようにしたものであるが、これにも色々あって、例えば弧光の周囲をガラスで密閉し、その中に空気以外の瓦斯、例えば窒素、一酸化炭素抔を充たしたのがある。此方だと炭の棒の消費が少ない。その他炭の棒やホヤや附属器械のパテントを一々数え立てたら限りがない。それからまた直通電流を用いるのと、交番電流を用いるのと、それぞれ区別があるが、要するに炭の棒の隙間を電気が通る時に炭の蒸気が出てこれが光る。電車の屋根から突き出ている棒と架空線との接触した処で青い光が出るのも同じ訳である。近頃は炭の棒の代りに金属を用いるのも出来た。弧灯は何万燭光などという強い光を出すので、探海灯、灯台用その他すべて戸外の灯用に適している。
(明治四十年七月十五日『東京朝日新聞』)



 室内用として最も広く用いられるのはや…

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