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三拍子
さんびょうし
作品ID61028
著者中野 鈴子
文字遣い新字新仮名
底本 「中野鈴子全詩集」 フェニックス出版
1980(昭和55)年4月30日
入力者津村田悟
校正者かな とよみ
公開 / 更新2024-07-15 / 2024-07-06
長さの目安約 2 ページ(500字/頁で計算)

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本文より


夜中の十二時頃、おくさんが寝室からのぞく
もう寝ていいですよ

足も頭も出てしまう夜具
見たこともない短いふとんの中へ
たおれるように

夜中に、二、三度はね起き
はなれた部屋まで時計を見にゆき
広いエンガワ 広いタタミ
掃除 めしたき

赤ん坊を背中にくくり
破れたふとんを片っ端から解いて洗って綿を入れ
縫いはじめては手をはなし
買い物に走り
洗い物は朝と晩 五本のサオにいっぱい

光がななめにとどく台所の
調理台の片隅に 踏台に腰かけ
おはちの底をかきあつめてようやく茶わんにいっぱい
主人たちの数々の御馳走の影さえみえぬ
何を食べればいいのか
仕方なく立ち上がり

足は棒のように 胸板がうすくなったように
目まいのようにつまずく

最初 雇主はいった
子供もない 亭主もない
そんな人をさがしていたのだ
その上 田舎から出てきた 三拍子揃うていますわ
どうもコブ(子供のこと)のついているのはねえ
五十過ぎのおくさんはあふれるようににこにこした
得意ででもあるかのように

白髪のかみを光らせ 体をそらせている主人
奥様の胸はまだふっくらとして 指はなめらかに 口ベニも赤く
子供はぞろぞろ だみ声と キンキン声と かみの長い 夜のおそい大学生が
お父さま お母さま

一人の女の塗りつぶされた身の上が
一人の女をニコニコさせている
雇主はわたしのうなじにつり竿を垂れ じっとしている。



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