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悪の帝王
あくのていおう
作品ID61096
副題02 第2話 ウィンザー城
02 だいにわ ウィンザーじょう
原題THE MASTER CRIMINAL: II. AT WINDSOR
著者ホワイト フレッド・M
翻訳者奥 増夫
文字遣い新字新仮名
初出1897年
入力者奥増夫
校正者
公開 / 更新2021-08-02 / 2021-07-26
長さの目安約 19 ページ(500字/頁で計算)

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本文より

第一章
 カリバッドの藩王が当分、ジョルマイン・ストリートに逗留中だ。あすウィンザー城の定例晩餐会に出席するよう命じられている。その間ホテルを事実上、借り切った。
 道徳なんて藩王にはない。今までどんな場合も必要なかった。でも金持ちだからインド商会は、ちやほやした。
 インド商会の目下の関心は、この高名な藩王からの分け前、例えば領土とか、人夫とか、ダイヤモンドだ。だからウィンザー城で会って、話を詰める算段だった。
 一方の浅黒い藩王は片目でウィンク。局面の情勢は十分承知の上だ。なにしろ、カリバッドに専用演芸場まで持っている身だから。
 ちなみにこのナナ・ラウ藩王以上にひどい悪党はこの世に存在しないと言ってもよかろう。若い頃の経歴を知る者はほとんどいない。完璧な英語を話し、競走馬血統の知識は通り一遍じゃない。
 ナナ・ラウ藩王が一人で夕食を食べ終えた。二本目の煙草に火をつけた時、召使いが入室して告げた。
「お客様が下でお待ちでございます」
 珍しく寛大に、藩王が目通しを許した。
 客人がはいり、お辞儀して、扉を閉めた。
「殿下、私はウィルフレッド・ボーンと申します」
 藩王がこっくり。好印象を与えた。洗練された服のためだ。
「ボーン君、座って。煙草をどうぞ。それで、用件は」
「恐縮でございます。さすが東洋の藩王でいらっしゃる。こんな立派な煙草は勿体のうございます。ところで、よもや昔のオクスフォード時代をお忘れでは?」
「ずいぶんむかし、二十年前だからなあ」
 とナナ・ラウが不安げに答えた。
 事実、不安だった。ナナ・ラウが以前オクスフォードにいたなんてことを、インド商会が知ったら驚くだろう。でも当時はナナ・ラウという名前じゃなかったし、四人の善人がカリバッド・ダイヤを管理していた。
 そして、たまたま事件がオクスフォードで起こり、緊急処理され、無縁墓に埋められ、その上に花々を咲かせて、白い墓石もなく、忘れ去られた。しかし今、もしこの話を蒸し返せば、ナナ・ラウはカリバッドの王座からたちまち滑り落ちること必定だ。
 ボーンがもったいぶって、言った。
「二十年て、どうってことないです。私は記憶がいいですから」
[#挿絵]
「たしかキミは下院のボーン議員だな。何を覚えている?」
 ボーンが笑いながら答えた。
「そうですね、例の煙草屋のかわいい娘ですよ。不審死で発見されましたね。同時期、クライスト・チャーチのインド人学生が消えました。警察は必死になって探しました。必死に……。奇妙なことに二度と噂がありません。私も見てません、今日までは」
 ナナ・ラウが平静を取り戻した。薄い唇のピクピクが止まった。これはゆすりだと察した。藩王が語気を強めた。
「キミ、いくらだ?」
「さすがに勘が鋭いですね。あなた程の東洋詩人はいません。とにかく、お金じゃないですよ、つまり……。詳しくは話…

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