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私の探偵小説
わたしのたんていしょうせつ
作品ID61107
著者坂口 安吾
文字遣い新字新仮名
底本 「坂口安吾全集 06」 筑摩書房
1998(平成10)年7月20日
初出「宝石 第三巻第一号」1948(昭和23)年1月25日
入力者toko
校正者持田和踏
公開 / 更新2022-10-20 / 2022-09-26
長さの目安約 4 ページ(500字/頁で計算)

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本文より

 私は探偵小説が好きなのである。
 私は仕事に疲れ、二三十分ごろりとねころんで休憩するとき、詰碁か詰将棋か探偵小説を読む。探偵小説の在り方はそれでいゝのだろうと思う。探偵小説を書いている人たちは自分が苦労して書いているから芸術品のように尊重されたいと考える。その気持もうなずけるが、そんな風に言う必要のないことだと私は思っているのである。
 私の小説、いわゆる純文学などゝ称しているものでもそうだ。たとえば仕事に疲れた人がゴロリとねころんで、二三十分の休息によむ。詰碁や詰将棋と同じ休息用のオモチャとして読む。それでいゝではないか。色々な人々に、その人各々の様式で読まれたり受け入れられたり投げだされたりする。
 純文学だから娯楽用に読んじゃいけないという規約があるわけのものではない。読む人の自由であり、そこでたとえば私が自分が好きだものだからオレも一つ探偵小説を書いてみようか、というように、休息用に純文学を読んで純文学の面白さや問題の在り方に会得するところのあった御仁がオレも一つ純文学を書いてみよう、そう思ってツレヅレに書きだす、そんな風にして純文学を書いてみようという人が現れても、私はそれもよろしいと考える。一つの極った型はない。人各々自分流に色々の方法様式があるもの、流儀だの流派、主義だのと、いたずらに窮屈な限定をつけるのは最もその道をあやまり易いものなのである。
 私の探偵小説は、私の趣味で、私もずいぶん疲れたとき退屈なとき探偵小説のゴヤッカイになり、恩も深いが、又、探偵小説にも本当に終りまでたのしませてくれる名作がめったにない、自分に及ぶものなら、ひとつ自分で名作を書いて同好の士の退屈のひとゝきにたのしいオクリモノをしてみたい、そう考えているうち、暇々に自分で構想をねってみて、これなら同好の士に馬鹿馬鹿しいとかツマラナイとか思われないだけのオクリモノになるだろうと考えて「不連続殺人事件」を書きだしたのである。
 これは元来「宝石」へ載せる約束のものであったが、今年の春から用紙割当で雑誌が減ページとなり、一冊の雑誌にいくつの作品ものせられなくなった。そこで数に限りの探偵雑誌に、素人の私がわりこんで連載小説など書いては、探偵雑誌にしか作品を売ることのない専門作家の人たちのスペースをとり、好ましいことじゃないと思ったから、どっちみち私が書かねばならぬ方面の純文学雑誌に載せることにしたのであった。私はこれを私の一存でやったから、あとで「宝石」の編輯の人たちに大変恨まれることになったが、私の微意を察して御カンベンねがいたい。
 そこで、私に、代りの探偵小説をと「宝石」から強硬ダンパンで、私もつらいところであるが、探偵小説は私の趣味で、趣味というものは暇々ツレヅレにたのしみながらユックリと、自らタンノウしてやる世界だ。それに探偵小説というものは構想、トリック、よくよく…

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