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私は地下へもぐらない
わたしはちかへもぐらない
作品ID61133
著者坂口 安吾
文字遣い新字新仮名
底本 「坂口安吾全集16」 ちくま文庫、筑摩書房
1991(平成3)年7月24日
初出「東京新聞 第三三二七号」1951(昭和26)年11月25日
入力者持田和踏
校正者ばっちゃん
公開 / 更新2025-02-17 / 2025-02-11
長さの目安約 2 ページ(500字/頁で計算)

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本文より


 十一月二十日の本欄に私が地下へもぐったなどと小原特審局の怪情報が現れたが、だいたい地下へもぐるというのはシサイあるサムライのやることだ。
 小生は幼にして出家遁世を志し、こと志とややちがって半分ホラアナに住んでるようなものだから、これ以上もぐりようはないさ。久方ぶりに花の銀座へ現れてちょうど四晩にわたってお酒を味っているというのに、地下へもぐったとあっては飲み屋のオヤジにさてはニセモノかと思われてグアイがわるい。
 競輪不正事件について大巷談を執筆し、自費出版して大いにモウケて、それで税金をポンと払う、という。本人がアレヨ、アレヨと思うようなことを書いてくれるのも一興で、私が立腹したところでどうせ自粛の見込みはないが、文筆業者は文章にだけは気をつけるもんじゃよ。
 大いにモウケて税金を「ポンと払う」というが、だいたい言葉に敏感な文士が「税金をポンと払う」というようなガサツな言葉や表現を用いますかね。それはお金と闘い、三文の計算に明け暮れし、お金モウケにキュウキュウ辛苦を払う人がおのずからに用いる恨みのこもった表現や考え方で、小原壮助さんとちがって、文士はそんな言葉は用いないものです。
 自費出版して、大いにモウケて、ポンと税金を払うような甲斐性があるなら、今日に至るまで鋭鋒を秘めておく手もなかろう。とッくに大出版社長に納まって、残念だが坂口安吾には勝てなかったと菊池寛を泣かせていたであろう。
 売文のタネに窮してヨタを書くのも生業とあれば仕方がないが、大いにモウケて税金をポンと払うとは、胸クソがわるいね。ムカムカするような妙な言葉だけは使うもんじゃないよ。売文業でも、文章や言葉の筋だけは通らなければいかんもんだ。気をつけろい。
 これをポンポンいうという。しかし、ポンと払うものではないね。すべて言葉というものは。金銭また然らん。呵々(カラカラとよめ!)



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