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悪の帝王
あくのていおう
作品ID61141
副題04 第4話 モリソン号賠償金
04 だい4わ モリソンごうばいしょうきん
原題THE MASTER CRIMINAL: IV. THE “MORRISON RAID” INDEMNITY
著者ホワイト フレッド・M
翻訳者奥 増夫
文字遣い新字新仮名
入力者奥増夫
校正者
公開 / 更新2021-10-01 / 2021-10-03
長さの目安約 18 ページ(500字/頁で計算)

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本文より

第一章
 デイリイ・テレフォン紙の六月十九日最終版が次の記事を報じた。

『ランドストランド共和国がケープ連邦商会に対して行った請求金額が遂に決定した。同国の裁定官は損害を百万ポンドと査定し、向う四週間以内に支払うよう命じた。これがモリソン号撃沈事件の最終章になるか見ものである。南アからの最新情報を信頼すれば、本件は単なる序章に過ぎない』
[#挿絵]
 何千人という英国関係者が朝コーヒーを飲みながらこの記事を読んだけれども、ほかの誰より興味を持って読んだのがジェームズ・グリーンバム氏、有名なケープ商人で、フェンチャーチ通りの自社支店にいた。
 グリーンバム氏は英国に長く住んだことはない。ケープの成金億万長者として知られ、この国へ来たのはロンドンに自社の支店を開設するためだった。あとは公然とランドストランド政府を支持しており、あけすけに言えば英国の敵だ。このように大っぴらに反対できるのはこの国だけだし、実際、あおっているようにすらみえる。
 大柄で太っちょ、髭を剃りあげたユダヤ人風の顔と、灰色の鋭い目つきの持ち主がグリーンバム。ずる賢い成金の化身だ。まさに衣服で資本家と分かる。このタイプは一目で分かるし、シティのみで見られる。尤も、たまにマンチェスターやリバプールでは行き当たるけれども。
 グリーンバムの眼鏡の奥がギラリ光った。意を決したようにテレフォン紙を脇に置き、支店を出て向かった先は一連の建屋、狭いチープサイド通りにある。この辺りにリーマシュリア商社の事務所があった。
[#挿絵]
 グリーンバムが責任者に面会を求めると、すぐ個室に案内された。細身、満面に笑みをたたえた薄い唇の男が、立ち上がって出迎えた。男は狂信者だとさんざん報じられていた。
 これ以上いないというほどの偏屈な大物、かつ、これ以上いないというほどコテコテの小英国主義者が下院のスティーブン・リーマシュリア議員であった。宗教に凝る者がいるかと思えば、強欲だけというのもいる。リーマシュリア議員は後者だった。
 モリソン号撃沈事件で議員の心情はすっかり乱されてしまった。あちこちに金を配って、ランドストランド共和国から荷物ごと英国を撤退させかねない。
 かねての反政府活動が熟せば、かの敵共和国に十万ポンドを提供するつもりだ。この覚悟はリーマシュリア議員だけではなかった。ほかにいることをグリーンバムもよく知っていた。
「先生はテレフォン紙をご覧なさいましたか。どうなさるおつもりですか?」
「行動だよ。君のようなランドストランド共和国人なら私の行動が分かるはずだ。あっちで混乱が起こり、我が政府は共和国と戦うつもりらしい。恥知らずも土地を奪うだろう。だがあの賠償金は願ってもない幸運だぞ」
「まだ払われていませんよ」
 とグリーンバムがそっけなく言った。
「そうだ。でも確実に入る。問題はだ、すぐかどうかだ。…

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