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光を覆うものなし
ひかりをおおうものなし
作品ID61145
副題――競輪不正事件――
――けいりんふせいじけん――
著者坂口 安吾
文字遣い新字新仮名
底本 「坂口安吾全集16」 ちくま文庫、筑摩書房
1991(平成3)年7月24日
初出「新潮 第四八巻第一二号」1951(昭和26)年11月1日
入力者持田和踏
校正者ばっちゃん
公開 / 更新2022-12-07 / 2022-11-26
長さの目安約 25 ページ(500字/頁で計算)

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本文より

 私はこの事件を告発して、いったん検察庁にまかせたのだから、検察庁の調査が完了して公式の発表が行われるまで、私自身の発言は差し控えるツモリであった。
 ところが十月二日の朝日と毎日の朝刊に妙な記事が現れた。沼津地検へだした証拠物件の写真を静岡国警へ鑑識を依頼し、その結論として写真に修正が施されていないことが明かとなったので(以下は毎日の記事)沼津地検は私の出頭をもとめて事情を再聴取することになった、というのである。
 藤井弁護士はこの記事を見て単独(私には通告なく自分だけの意志で)即日沼津地検へ出頭、検事が不在のため、事務官に尋ねたところ、地検からはそのような発表は行わなかった、という返答であったそうだ。
 また、常識から考えても、検察庁で調査中の事件に、中間的な発表が行われることは考えられないことである。
 私が告発した翌日、振興会はネガを東京へ持ってきて、これがホンモノのネガである。どこにも修正は施されていない、と発表した。立会った新聞記者はこれを調べて、このネガはホンモノである、修正されていない、という結論に達した。当り前の話である。比較すべき写真がなければ、ホンモノかニセモノか分る筈はない。私の写真を複写した某新聞社は、その複写が紛失した由で提出しなかったそうだから、比較の対象がなければ、ネガはホンモノだと判定する以外に手はなかろう。
 私の方は主要な写真は証拠物件として告発状とともに沼津地検へ提出してしまっている。手もとには尚数葉の写真が残っているが、あいにくなことには、私自身には全然写真の知識がない。私自身にはネガと比較して真偽や修正を指摘する能力が全く欠けているのである。ところが朝早くから頼んでいた写真屋がようやく夕方になって来てくれた始末であるから、その時はすでに、振興会提出のネガはホンモノだという判定にきまって記者団は解散した後だった。
 朝日と読売から、振興会提出のネガからの写真を持ってきてくれた。読売は判定前に持ってきてくれたが、その時は私の方には写真知識の所有者が現れてくれないのだからどうにもならず、朝日は判定があって後に持参してくれたから、どっちみち、記者団の判定決定前に私の方からどうすることも出来なかったのである。私に写真の知識があると、判定写真の不正は大きな問題になる前にカンタンにバクロすることが出来た性質のものであった。
 その後に至って写真屋は次々に現れてくれたが、インチキネガのカラクリは忽ち確証をあげうる性質のものであった。
 ただインチキ判定写真の製法が、私が最初に推定した方法ではなかっただけの話である。私は一着二着のユニフォームの色と番号を修正したカラクリ写真だと述べ、告発状の中にも特に証拠写真にそう説明を加えておいたが、これが写真知識皆無のための私の失敗で、インチキ写真は別の方法で製造されたものであった。
 したがっ…

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