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ふたりのおばさん
ふたりのおばさん
作品ID61150
著者室生 犀星
文字遣い新字新仮名
底本 「日本の童話名作選 昭和篇」 講談社文芸文庫、講談社
2005(平成17)年7月10日
初出「銀河 第三卷・第一号 一月号」新潮社、1948(昭和23)年1月1日
入力者持田和踏
校正者きりんの手紙
公開 / 更新2022-08-01 / 2022-07-27
長さの目安約 10 ページ(500字/頁で計算)

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本文より

一 カニと機械

 子どものくせにどうしてタカダのおばさんの家に、たびたび遊びに行ったかといえば、それはおばさんが話しぶりもやさしく子どものいやがるようなことをいわないからであった。子どものいやがることをいうおばさんは、いつもきまって意見がましくつべこべとしかるような調子で物をいうからである。タカダのおばさんの家はダイクさんだった。ダイクさんだったから坂の上に家を建てて住んでいたが、その家は妙な家で、坂の上であるから二階が普通の家のように、道路からすぐはいられる土間になっていたが、中にはいると階下が崖をえぐり抜いてできあがっていた。ちょっと見ると、ヒラヤであるが、実際は二階であった。
 その坂の上からすぐ大川になり、ガケがつづいていて、飲料水をとるために、清水のわくガケのかみ手からカケヒを引いてあって、そのカケヒの水がおばさんの家のお勝手に年じゅう、そそいでいた。リョウヘイはおばさんの家に行くとすぐカケヒのもとである清水のわくかみ手に、ガケをつたってカニをつかまえにいった。清水のわくところは小さい泉になっていて、じくじくした土の穴の中に、ツメの赤い小さいカニがたくさんにいた。サクラの花弁くらいしかないカニは、おばさんから借りたどんぶりに七八つもつかまえると、どんぶりが白い陶器の地の色であるから、カニのかっこうがことさらに美しく見えるのである。リョウヘイはカニというものの十本の足がよくもあんなにたくさん必要なものだと、考えていた。人間は二本あればたくさんなのに、カニは十本もあってしかもみな同じ足なのであるから驚く、まるであれは機械じゃないかしら、機械というものも、やはりカニの足から考えついたのかもしれないと思っていた。リョウヘイは好きなカニをつかまえると、ガケをつたっておばさんの家にもどり、おばさんのすわっている長ヒバチの向こう側にすわり、どんぶりの中をのぼってはすべり落ちるカニを見ながらおばさんの焼いてくれるカキモチの固いやつをぽりぽりかじるのである。おばさんの家には年じゅうカキモチが正月からしまってあって、リョウヘイが遊びにゆくときっと二枚だけ焼いてくれるのである。カキモチは正月からあるのだから石のように固い、それをかみしめるとミツのように甘い。おばさんはどんな話をしてくれたか覚えていないが、おばさんの顔は大きく、いくらか四角な感じで目は細く、もののいい方がのんびりしていて、せかせかしていない、リョウヘイの顔を見るだけで、ほかのものを見ないで話をするのである。これはおばさんだけにかぎられたことではなく、おとなというものは子どもと話をするときには、なぜかじっと子どもの顔ばかり見つめるものである。おばさんもそうである。なんだかしじゅうにこにこして、気の長そうな話しぶりなのである。そんなときにカニはどんぶりの中をすべりながら歩いていて、それをリョウヘイは楽しく見…

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