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美しき元旦
うつくしきがんたん
作品ID61157
著者吉田 甲子太郎
文字遣い新字新仮名
底本 「新版・星野くんの二塁打」 大日本図書
1988(昭和63)年1月31日
初出「少年倶楽部」大日本雄辯會講談社、1939(昭和14)年1月号
入力者kompass
校正者noriko saito
公開 / 更新2024-01-08 / 2023-12-30
長さの目安約 14 ページ(500字/頁で計算)

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本文より



「そういうわけで、来年のお正月の拝賀式は、この再建日本のかくごをかためるためにも、別しておごそかにとりおこなわなければなりません。」
 先生のわかわかしい顔が赤くもえたってきたのは、教室のすみでまっ赤にやけているストーブのせいばかりではなかった。
 六十二人の少年のしんけんな目が、先生の熱情にいっせいにこたえて、教壇の上の顔を見つめている。
 うす日のさす窓の外を、十二月のからっ風がヒューッとふいていっても、それに気をとられる者もなかった。教室の中はしんとして、みんな先生のつぎのことばを待ちかまえている。
「さて、本校では例年のとおり、六年級の男女から、それぞれ一名の代表者をえらんで、全校の男子、女子にかわって、式場で新年のあいさつをのべさせることにきまりました。この級からは、みなさんに男子の代表をえらびだしてもらわなければなりません。これはみなさんが在学中ただいちどしか出会うことのできない重い役めです。みなさんの希望、みなさんのかくごを、この新時代の新年拝賀式にりっぱにいいあらわしてもらうには、どの友人を立たせたらよいか。まじめに投票してほしいと思う。今、投票用紙をくばるから、あの人ならと思う名まえを一つだけ書いてください。」
 六十二人の少年たちの胸が、どれもこれも、急にドキドキしてきた。
「五分間考えて、それから書く。なお、いちばん投票数の多い人が代表者、そのつぎの人が代表候補者――つまり代表に急にさしつかえがおこったとき、その人にかわってあいさつをする、いわば補欠選挙になるのだからそのつもりで――では、高木と中条、この紙をみんなにくばって。」
 先生はうで時計を見ながら、級長の高木光吉と副級長の中条奈良夫とに、小さく切った投票用紙をくばらせた。
 二十分とたたないうちに、選挙はすらすらと終わった。そして、高木が代表、中条が代表候補者ということにきまった。
「新年拝賀式の全校男子代表は高木、代表候補者は中条。こうきまったうえは、高木に投票しなかった者も、高木を自分たちの代表にえらんだことになる。これが選挙のだいじなところだ。しょくんのクラスが高木をえらびだした。そして、しょくんは、みんなこのクラスの一員なのだから、とうぜんきみたちみんなで高木をえらびだしたことになるんだ。わかったね。」
 そちこちで、いくつかの顔がうなずいた。
「では、まだ少し時間は早いが、これで終わりにする。みんな帰ってよろしい。」
 わっと、うれしそうなざわめきをあげて、みんな帰りじたくをした。



 高木光吉は、寒い風の中を大またにあるきだしていた。かれの心ははずんでいた。全校の代表としてのべようとすることばが、もうさっきから頭の中へ、いくつもいくつもうかんできているのだった。
 丘をこえて、林ぞいの道へ出た。草は白くかれて、落ち葉が風にふかれて追っかけっこをしている。…

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