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三重塔にて
さんじゅうのとうにて
作品ID61172
著者福永 信
文字遣い新字新仮名
底本 「すばる 第41巻第6号」 集英社
2019(令和元)年5月6日
初出「すばる 第41巻第6号」集英社、2019(令和元)年5月6日
入力者福永信
校正者大久保ゆう
公開 / 更新2022-01-01 / 2021-12-27
長さの目安約 20 ページ(500字/頁で計算)

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本文より

 三年前から、我々三人の講演旅行は、始まった。
 三人とは、澤西祐典、円城塔、私である。不思議な組み合わせですねと近所の住民に言われることがあるがそうかもしれないと私も思う。近所には意地悪な口達者もいて、どうして澤西さん、円城さんの二人じゃなかったんですかね、と、まるで私が加わっていることが余計だと言わんばかりの口調で軽く非難されたりすることもあるのだが、私にはこの旅がなんともありがたい。何しろ、まだ食べていない駅弁と出会うことが、ごく自然に、できるからである。日本各地を、年一回のペースで訪問する講演旅行である。人から悪く言われるのは気持ちのいいものではないが、放っておくことにしている。反論すればいいという意見もあるが、そんなことをしてたら、キリがないし、確かに、なぜこの三人なのか、ということについては、私にもうまく説明できそうもないからである。私にもわからないというのが、正直なところなのである。私は動物が出てくる小説しか書いてないし、澤西、円城両氏とは作風がまるで違う。私が、朴訥な文章で、ストレートに書く作品は、童話と言ったらいいのかな、地味であり、古風であるのに比べて、最新の、高度な技術を駆使した両氏の作品とは、読者も重ならないことだろう。年齢も、私だけ還暦を過ぎており、世代間のギャップもある。しかし、個人的見解をあえて述べさせてもらえば、まず駅弁、次に若い作家のホープである澤西、円城両氏との貴重な交流、それから、未知の土地の動物とのコミュニケーション、この三つの要素が、私にとってこの講演旅行を大事なものにしているのである。なぜなら、駅弁には流行があり、今、食べておかなければ、今後口にすることができない、それが駅弁の尊さだからである。今の私はこの講演のために生きているようなものである。
 国内各県を、訪問し、そこで勝手に町おこしをするというのが、我々の旅の主目的である。年に一度のハイペースで、各県を巡っている。最初は、大分県は、別府であった。有名な温泉地である。それが、三年前のことである。その時は、我々の旅に「勝手に町おこし」という名称は、なかった。それから、富山、静岡、そして今回の尾道と、旅は続いているが、今も、実は、公式には、勝手に町おこしというネーミングは採用されていない。主に、大学が、我々を呼んでくれるのであるが、したがってそれは、公開の形をとりながらも主に学生向けの講演会という形になるのであるが、その際に学生、参加者に配布される資料に、この「勝手に町おこし」ということはこれまで一切書かれたことはなかった。我々が、講演の中で触れるのみである。
 勝手に町おこしという秀逸なネーミングは、澤西、円城両氏が考案したもので、覚えやすく、親しみがわく。例えば今回の訪問地尾道という日本固有の領土を、文学という視点から、見ると見えてくるのはどんな風景か。おそら…

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