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悪の帝王
あくのていおう
作品ID61208
副題06 第6話 薔薇十字
06 だいろくわ ばらじゅうじ
原題THE MASTER CRIMINAL: VI. THE ROSY CROSS
著者ホワイト フレッド・M
翻訳者奥 増夫
文字遣い新字新仮名
初出1897年
入力者奥増夫
校正者
公開 / 更新2021-12-02 / 2021-11-27
長さの目安約 19 ページ(500字/頁で計算)

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本文より

第一章
 ジョブ・ポッターという名前はどんなに想像を膨らませても語呂がいいと言えないが、億万長者なら些細なことだ。億万長者ポッターと、伊達男ホン・オーガスタス・ヴァンシターとの間には大きな隔たりがある。しかし様々な理由で両者は友達になった。
 普通の小柄な男が億万長者のポッター、狡猾だ。伊達男ヴァンシターからは実入りなんて得られない。ただ遙か英国にいるポッター夫人が社会的な名声を欲しがっており、ヴァンシターが使えるかもしれなかった。
 ヴァンシターも手ぐすね引いて待っていた。億万長者ポッターが提供したシカゴ・ロイヤル・バナーホテルの夕食はそれなりに優雅だ。
 その晩、二人で食事中、億万長者ポッターがこう言った。
「アメリカ巡業はこれが最後だ。二か月以上だから帰国して腰を据えるよ」
 伊達男のヴァンシターが応じた。
「私もです。親戚に会うのは子供のころ以来かな。アメリカへ移住したんです。財産が入りましてね。ここに来たおかげです。いやあ、また高級服が着られる身分ですよ。でも司教には世話がやけます」
「誰だい、司教とは」
 とポッターが興味津津だ。
「クロイドン閣下ですよ。遠い親戚でね。療養に来たんです。ここで会う段取りをつけて、一緒に帰国します。あした到着です。顔が分からないかもなあ。でもエラ令嬢がよくお世話しているから」
「また誰だい、令嬢って」
 ポッターがことさら令嬢を強調した。
「姪っこですよ、ポッターさん。並の器量で、活発な子です。大丈夫、あなたのご親切はちゃんと伝えますから。もしよければ到着次第、司教とエラを呼んで一緒に食事しましょう」
 億万長者ポッターの顔が輝いた。ここでカードを切れば、英国経団連へ入会するきっかけが出来る。ポッター夫人が切望している団体だ。他の何にも勝る印象を与えようと薔薇十字ダイヤモンドを購入済みだった。
 億万長者のポッターが言った。
「願ったりだ。エラ令嬢に薔薇十字を見せよう。女性はダイヤが好きだ。新聞でダイヤ購入を読んだと思うが」
 ヴァンシターがあくびをして、物憂げにこう返事した。
「ええ、億万長者なら地球すら買い占めますよ」
 ポッターがさえぎって言った。
「すごい石だぞ。見たいか」
 ヴァンシターはうなずいたものの、気が乗らない。薔薇十字という有名な宝石は当代一の関心事なのに。
 石というより宝石の塊で、蛇のように長くねじれており、カリフォルニアで発見されたとされるが、鑑定家によればブラジルから盗まれて、さる場所へ持ち込まれ埋められて、再び掘り返され、現地発掘という作り話をでっちあげたとか。
 価値はざっと十万ポンド、実際はその二倍でも売れる。
 ポッターが隣の寝室から珍品を持ってきた。内輪夕食のゆえだ。ヴァンシターに渡し、悦に入って訊いた。
「すごいと思わないかね」
 伊達男ヴァンシターが急に興奮した。もしポッタ…

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