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太陽を呑む赤い老星の秘密
たいようをのむあかいろうせいのひみつ
作品ID61214
著者畑中 武夫
文字遣い新字新仮名
底本 「日本の名随筆 別巻16 星座」 作品社
1992(平成4)年6月25日
入力者toko
校正者noriko saito
公開 / 更新2022-11-10 / 2022-10-26
長さの目安約 6 ページ(500字/頁で計算)

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本文より

 そろそろ夏が来る。
 夏の空の星で、ぼくが一番なつかしいのは、さそり座とその主星アンタレスである。
 中学初年のころ、「子供の科学」や「科学画報」の星座案内をたよりに、熊野川の川口近くの河原に立ってこの星座をながめた。
 アンタレスは赤い星である。アンタレスの名は、「火星の敵」という意味だそうである。赤い星、火星に対抗するほど赤味をおびた、そして明るい星ということであろう。
 アンタレスはさそりの心臓である。向って右、つまり西の方に巨大なさそりの爪がある。アンタレスから左下にならぶ星は、ゆるい曲線でSの字の下半分を書いて、いかにもさそりの尾を想わせる。星図をたよりにさそりの星々をたどって、最後にこの尾の曲線を見つけたとき、ぼくはどうやら星の病いにとりつかれてしまったらしい。
 アンタレスは南の空であまり高くない。ことにこの星が西へ寄ったときは、かなり地平に近くなって赤い星の光がゆらめく。いかにもあえぎあえぎ西の空に向っているようである。
 アンタレス自身はまことに巨大な星である。直径が太陽の二百三十倍もあるというから、もし太陽とアンタレスが入れかわったとしたら、地球の軌道がちょうど呑まれるくらいである。こういう大きな星で、しかも色が赤色をおびた温度の低い星は、ある時代には、きわめて老齢の星と思われていた。あえぎあえぎ西へ向うこの星の姿を、いかにも年老いた星の最後の姿にふさわしい、と表現した文章を読んで、まったくそのとおりだと思った。
 その後の説では、こういう低温の巨大な星は、生れて間もない星と訂正された。いわば巨大な赤ん坊である。その説によれば、この星はこれから次第に縮んで、やがてシリウスのような青白い光の星になり、その後は再び冷えるけれども大きさは変らず、ちょうど太陽のような星を経て、ついには暗黒の星になると考えられたのである。ぼくたちが大学を出た頃は、これでは不満足なことはわかっていたけれども、これ以外にどう考えていいかわからなかった。
 星の新しい進化論では三転して、アンタレスを老成した星と考えている。太陽も、やがてはこのアンタレスのように、巨大な星にふくれ上ると考えている。そのとき、おそらく数十億年後のそのときには、地球はこのふくれ上った太陽に呑みこまれてしまうかも知れない。いやその前に、太陽の出すはげしい熱のために、地球はもはや生物の住む世界ではなくなっているかも知れない。
 光と熱とを出し続けているこの太陽が、どうして冷えきってしまわないのか。どうして巨大な、アンタレスのような星になるのか。この問いに簡単に答えることはむずかしい。けれども、星の進化が全く逆転してしまったのは、星の光るエネルギーのもとが、核融合の原子力だとわかったからといえる。この核融合は、星のなかで発見され、地上で水爆に姿を変えて実現されたけれども、星の生涯についての考えも全…

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