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偽悪病患者
ぎあくびょうかんじゃ
作品ID61288
著者大下 宇陀児
文字遣い新字新仮名
底本 「探偵クラブ 烙印」 国書刊行会
1994(平成6)年3月25日
初出「新青年」博文館、1936(昭和11)年1月号
入力者羽田洋一
校正者mt.battie
公開 / 更新2022-11-15 / 2022-10-26
長さの目安約 41 ページ(500字/頁で計算)

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本文より

(妹より兄へ)
 ××日附、佐治さんを接近させてはいけないという御手紙、本日拝見致しました。
 いつも通り、いろんなことに気を配って下さるお兄様だけれど、喬子、今度の御手紙だけはよく判んない。佐治さんは、喬子が接近したのでもないし、接近させたんでもないの。お兄様だって御承知の通り、お兄様や漆戸と同期生だったんですって。アメリカから帰られると、すぐ漆戸を訪ねていらっしゃって、それ以来漆戸は、病気で退屈で、話相手が欲しいもんだから、佐治さんが来て下さるのを、随分楽しみにしているんですわ。
 そういえば思い出すけれど、漆戸が一度いいました。「佐治という男は、学校時代から一寸変ったところがあって、他人から随分誤解されたものだが、芯は、気の弱い正直な男さ」って。喬子、まだ佐治さんがどんな風に変っている人か知らないけれど、お兄様が何かきっと誤解しているんじゃないかしら。まアとにかく、お兄様のいうことは、これまで大抵の場合、嘘だったことはないのだから、その意味で喬子、今度の御手紙のこと、忘れないでいるつもりです。漆戸が、電話をかけて呼んだりなどするのだから、佐治さんが、ここへ足踏みもしないようにするなんてこと、とても出来ないけど。
 漆戸の病気、本当はあまり好くなくて、困っています。医者のいうのには、この冬を越せるようだったら、見込みがいくらか出るんだそうです。一週間前に喀血して、近頃は痩せ方もひどい。この冬のうちに、良人と死別れするなんてこと、考えただけでもゾッとしてしまう。それじゃ、喬子があんまり可哀想過ぎると思う。
 お兄様の方の御病気はどうなんですの。呉々も身体を大切にしてネ。

(兄より妹へ)
 三日ほど前、足試しのつもりで、宿の近くを四五町歩いて見た。歩けたには歩けたが、無理だったと見えて、あとの疼痛が激しく、今日やっと苦痛が薄らいで来た。心配してくれたけれど、僕の病気は大体こんな程度。気長にして、ここの温泉に浸っていればいいのを、時々、焦って足試しなどするのがいけないのだ。リウマチスなんて、老人の罹る病気みたいで、気の利かぬこと夥しいが、いずれしかし、癒ることは癒ると思うから、心配しないで欲しい。旦那様の病気と兄貴の病気と、二つ心配してちゃ、君も堪まらないじゃないか。
 さて、佐治佐助の件。
 私からの手紙が大変簡単過ぎたため、君には私のいうことがよく呑み込めなかったらしいね。無理もないことだ。佐治は、私にとっても友人だし、彼のことをあまり悪くいわずに置こうなどと考えたのだが、どうもそれでは不徹底で、結局、私の知っていることや考えていることを、ここで全部いって置かねばならないだろう。
 佐治を何故接近させてはいけないか、その理由は、大体二つあるが、先ず割に小さな理由の方からいうと、それは彼が非常な美男子であるということだ。
 彼の美男振りについては、君が彼と…

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