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悪の帝王
あくのていおう
作品ID61302
副題07 第7話 大統領死す
07 だいななわ だいとうりょうしす
原題THE MASTER CRIMINAL: VII. THE DEATH OF THE PRESIDENT
著者ホワイト フレッド・M
翻訳者奥 増夫
文字遣い新字新仮名
初出1897年
入力者奥増夫
校正者
公開 / 更新2022-01-14 / 2021-12-27
長さの目安約 18 ページ(500字/頁で計算)

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本文より

第一章
「ムッシュ、この書類ですが、この眼の前の書類で、私が嘘つきか分かります。ああ、出来れば自分で使いたかった」
「つまりそうしないということか」
 とフィリックス・グライドが訊いた。
 対面の小柄で陽気なフランス人が、ひきつり笑いした。ジュール・ファルビは決して悪相じゃないし、応対も良く、言葉も上品だが、でもほら、目の肥えたグライドにかかれば、囚人の影がばればれだった。
 しばらくグライドが逗留する豪華な部屋はパリのしゃれた一角にあり、パリはご存知・ガリア連邦共和国の首都だ。
 仕事が込み入っているため、ここへ来ている。どでかい新しいことをやろうと、いま石橋の中央に要石を入れるところだ。べた記事のたった一文字でピンと来て、大がかりな詐欺を思いついた。
 優れた頭脳と超人的な技を持ち、忍耐強く糸玉をほぐす。何カ月も時間をかけ、何千フランも使った。切り札すべてが完全にグライドの手中にあった。
 階下のブア地区が陽気に華やいでいる。二十五年間、パリがこんなにきらめいたことはない。
 というのも今年は大博覧会があり、そのすごさは世界屈指であり、一、二週間以内に共和国大統領が開会を宣言する予定だ。大方の見積もりでは、裕福な観光客が百万人以上パリに来る。
[#挿絵]
 グライドが窓から離れてニヤリ。頭から爪先まで黒一色で装い、何がしかの等級の斜帯をボタン穴にかけている。
 青白い顔と、分厚い黒の口髭が全体と調和していた。どうやら金の亡者か、財務官僚か、駐在武官といったところ。
 人々はロレーン男爵が何者か、パリで何をしているのか、いぶかった。
「なんで、自分でグランビル大統領に当らないんだ」
 とロレーン男爵が訊いた。
「とんでもない。男爵、わたしは前科持ちで……」
 とファルベが嘆いた。
「ツーロン監獄と全く関係ないこともないだろ」
「誰が男爵に教えたんですか」
「気にするな、キミはムショ帰りだろ。何年も前の話だし、それから問題は起こしてない。ほかに知ってる者は?」
 ファルベがこぶしでテーブルを激しくたたき、怒った。
「サツですよ。調書が……ああ。憎い。写真やら、身体測定やら、前科記録があり、逃げられない。グランビル大統領も同じ穴の狢なのに」
 グライドがなだめた。
「みんな、どこかで過ちを起こすものだ。この書類を見れば、大統領は当世の仏版・ハル皇太子のたぐいだな。大統領も苦しむべきだと言うのか」
「全くその通りですよ。あれは二十五年前。私は下っ端でした。奴は逃げて、本当の名前を消し、三年後に偽名で現れました。一年前パリに来たら、もうびっくりです。すぐ奴だと分かりました。それからどうにか連絡を取って、知ってるぞと脅してもびくともしません。逆にこちらがつぶされかねません。なぜだかわかりますか」
「ツーロンで刑期を勤め上げず、脱獄したからだろ」
「当りです。すごい。…

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