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悪の帝王
あくのていおう
作品ID61303
副題08 第8話 養岩油田
08 だいはちわ ようがんゆでん
原題THE MASTER CRIMINAL: VIII. THE CRADLESTONE OIL MILLS
著者ホワイト フレッド・M
翻訳者奥 増夫
文字遣い新字新仮名
初出1898年
入力者奥増夫
校正者
公開 / 更新2022-02-02 / 2022-02-15
長さの目安約 18 ページ(500字/頁で計算)

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本文より

第一章
 グライドが相棒をしげしげ眺めた。あけすけにそうできる単純な理由は、相手が盲人の為だ。とはいえ、切羽詰まってガラクタに手を出したわけじゃないし、自分なりにはっきりと儲けが見えたからだ。
 相手のフランク・チェイスモアは、かつて美男子だったに違いないが、後年大事故に会って、乾燥クルミみたいな傷跡が残り、視力も失っていた。
 グライドが慎重に言った。
「君の発明品を購入しようと思うんだが」
 相棒のチェイスモアは苦笑い。
 文字通り、ニューヨークの貧民街で、この変人技術屋をグライドが拾った。グライドの計画は荒唐無稽だったが、地下鉱脈を見る目は敏だった。
 技術屋のチェイスモアが答えた。
「ありがとう。発明品を町から町へ米国中売り歩いたのだが、皆笑ったよ。いい機械だがね。私のドリルとモータがあれば二週間で地球すら掘り抜ける。経費は、実質ゼロだ。あのニトログリセリンが爆発さえしなければ、私は成功者になっていただろう。今は目が見えないから子供並だ。おそらく救貧院へ行く羽目になろう。しかしだ、眼が見えないからこそ、秘めた能力で、世間を驚かせる。ただし馬鹿者どもが聞いてくれればだが……」
 チェイスモアが怒りの余り、体を震わせた。グライドはよく分かった。奴はそれなりに天才じゃないか。
「その馬鹿が聞いておる。なんで君と守護神をこんな寂しい荒れ地へ連れて来たか、分かるか」
「さあな。たぶん親切心からだろう。むかし本で読んだが、そんな奇行をする輩がいる」
「そんなことはしない。ここに連れてきたのはこっそり発明品を試験するためだ。君の言うとおりの性能が出れば、二万ドル払おう。もちろん、機械の借り賃だ」
 技術屋チェイスモアが感謝して言うことに、もしあんたがこの機械で掘削すれば、同等機械で一メートル掘るよりずっと短時間で、大量の仕事を行うことができる。
「益々けっこうだ。手短に説明してくれないか」
「簡単だよ。なにはさておきモータが新式だ。薬箱の大きさで一馬力出る。馬鹿どもは馬力が出ないという。失敗したとき、うぬぼれ屋はいつも不可能だという。見たことがあるだろう、群衆がでかい石壁を押し倒しても、誰も怪我しない」
「要点を言ってくれ」
 とグライドが冷静に言った。
「すまん。モータはだいたいポケット程度だ。これで花崗岩を一時間当たり十メートル掘り進み、直径十五センチの穴をあけられる。ドリルの外側には金属製の自在管があり、隙間にライノタイプ溶融物を流し込んで、固めることができる。どうだい。一時間で、直径十五センチの頑丈な管が十メートルだよ」
 グライドの眼がギラリ。能書きを聞いたのはこれが初めてじゃない。一日あれば、試掘して評価できる。
     *
 こうして一週間足らずで両人が行き着いた所は、ペンシルバニアで一番寂しい荒野の掘立小屋だった。近くに町はなく、あるのは木造小屋…

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