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コロロッチョ
コロロッチョ
作品ID61388
原題GRILLINO
著者カプアーナ ルイージ
翻訳者田原 勝典
文字遣い新字新仮名
初出1894年
入力者田原勝典
校正者
公開 / 更新2022-05-28 / 2022-05-13
長さの目安約 14 ページ(500字/頁で計算)

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本文より

 昔あるところに、貧しい田舎者の夫婦がいました。夫婦は、朝から晩まで食うや食わずで働いていました。毎日、亭主は日銭稼ぎに行き、奥さんは近所の手間仕事を手伝っていました。
 二人は、すすけた掘っ建て小屋に住み、家の中には、古ぼけた小さなベッドの他には家具が少しあるだけでした。けれども、不満などこれっぽっちも言いませんでした。夜は早めに床に就き、朝は夜明けとともに起きて働きだすのでした。
 ある晩のこと、一ぴきのコオロギがうるさく鳴いて寝付けません。コロロ、コロロ、コロロ、鳴き止みません。
 亭主が、いまいましそうに、ろうそくに火を点けて、ベッドから飛び降りました。
「どうしたんです、あなた?」
「コオロギのやつを、殺してやる」
「そのままになさいな、あれも神さまがお創りになったのですから」
 明かりを目にしたコオロギは、鳴くのを止めました。
 亭主は、ベッドに戻ると、ろうそくを消し、目を閉じて眠ろうとしました。
 コオロギが、また泣き始めました。コロロ、コロロ、コロロ、鳴き止みません。
「静かにしろ、叩き潰されたいか?」
 亭主は、再びろうそくに火を点けると、ベッドから飛び降りて、そこら中を探し始めました。
「コオロギのやつめ、どこに潜んでやがる?」
 すると、コオロギが、
「コロ! コロ! コロ!」
 亭主は、鳴き声のする方へ振り向くと、走り寄りました。
「コオロギのやつめ、どこに潜んでやがる?」
 すると、コオロギは、部屋の反対側から、
「コロ! コロ! コロ!」
 まるで、亭主をからかっているようでした。
 その晩は、夫も妻も、一睡もできませんでした。
「コオロギを見つけて、殺しておけ」夫は、言いました。「もしまた今夜鳴いたら、承知しないぞ」
 夫はすぐに手を上げるので、夫が出て行くとすぐに、妻はぶたれないように念を入れてコオロギを探し始めました。あちこち探し回りましたが、コオロギは一向に見つかりません。
「たぶん、戸口から飛んで逃げたんだわ」
 妻は、ほっとしました。しかし、その夜、またもやコオロギが、
「コロ! コロ! コロ!」
 鳴き止みません。
「まあ、あなた! どこもかしこも、隅から隅まで探したのに、見つからなかったのよ」
「明日、もっとよく探すんだ。さもないと、これだぞ!」
 棒っ切れをつかむと、亭主は妻を叩こうとしました。
「叩いたら、叩き返してやる」
「何だと、もう一度言ってみろ!」亭主が大きな声を上げました。
「ああ、もう言いません、あなた!」
 亭主は、気を静めました。部屋の中には、この二人のほかに誰もいません。それで、コオロギもしゃべる気になったのでしょうか?
「コオロギさん、私たちに何か用があるの?」妻が尋ねました。
「いいや、何も」
「隙間の奥で、何をしているの?」
「宝物を探してるんだ」
 それを聞いた亭主は、妻に黙るよう合図…

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