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悪の帝王
あくのていおう |
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作品ID | 61390 |
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副題 | 09 第9話 緋紋城 09 だいきゅうわ ひもんじょう |
原題 | THE MASTER CRIMINAL: IX. REDBURN CASTLE |
著者 | ホワイト フレッド・M Ⓦ |
翻訳者 | 奥 増夫 Ⓦ |
文字遣い | 新字新仮名 |
初出 | 1898年 |
入力者 | 奥増夫 |
校正者 | |
公開 / 更新 | 2022-03-02 / 2022-02-24 |
長さの目安 | 約 19 ページ(500字/頁で計算) |
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第一章
ちょっと生々しい騒動が昨年早々起り、当時アンジェラ・ラブ事件と呼ばれた。
ラブ令嬢は、舞台で急速に頭角を現し、類まれな美貌と端麗な容姿、素敵な笑顔を振りまいていたレディである。
むかしラブ船長という篤志家がおり、孤児のアンジェラは文無しだったので、手っ取り早い生活手段としてラブ船長の養子になった。
本当の女優じゃないことなど、最終的に成功したからどうでもいい。あとは、おつむが軽く、わがままな小娘で、恋愛の手管といったら、それこそ媚びるような情熱の才能があり、三か月前にも、十数人がこの女の為に恋敵の喉を欠き切らんと虎視眈々だった。
アンジェラ・ラブ令嬢の恋人の中で際立った人物が、若いレッドバーン公爵。二十歳までこの若い貴族は清教徒の祖母の庇護のもとで育ち、住居は緋紋城という弧城で、絵のように素晴らしい豪邸がヨークシャー沿岸にあった。
古代騎士の華麗な血統がレッドバーン公爵だ。純朴な情熱家だったので、ラブ嬢と知り合うや、たちまち罠にはまってしまった。
うわさ好きによれば、同嬢はたった一つの理由でレッドバーン公爵夫人になることをためらった。公爵にしては貧しかったからだ。かわいい令嬢は超現実家だった。
それにもう一人、熱を入れ上げたウェリントン・ミルズという恋人もおり、この若い億万長者の財力はノース炭田に由来する。
その間アンジェラ・ラブ令嬢はちょっと決めかねていた。保険をかけて、二人同時に婚約するという誠に都合のよい方策に打って出た。もちろん内緒だ。
これまた当然、避けられない事態が起こる。婚約者同士が「のらくらクラブ」で激しく口論し、同嬢には乱暴しなかったが、数日後に決着をつけようとなり、トルーヴィールの砂浜で撃ち合いをした結果、レッドバーン公爵は左腕を失ってしまった。
[#挿絵]
このホメロス風の試合が終わった後、決闘者それぞれにアンジェラ・ラブ令嬢から手紙が届いた。曰く、
「わたくし事態にとても悩み、激しい気性の騎士は選びかね、難題を解決するために、ドードルキン大公と結婚いたします。ちなみに同大公は欧州の大富豪ですの」
こんにちドードルキン大公妃は社交界の有名人になっており、タタール人の夫を崇めており、夫は時々妻をぶっている由。しょせんアンジェラはその種の男に惚れる類の女だった。
決闘相手のウェリントン・ミルズ大富豪は、今後女性を慎むと神々に誓い、六か月後、アミリア・ボルフィンチ令嬢と結婚した。ロックランド卿の一人娘だ。
一方、レッドバーン公爵は心に深手を負い、直ちにアメリカ西部へ狩猟旅行に出かけ、今後一年間いかなる手紙も新聞も送るなと厳命した。
順次これらはすべて、ライア新聞とユニバース新聞に詳しく載り、七回にわたり二紙は内容を競ったが、一致した事実はただ一点、レッドバーン公爵が本当に出国したということだけだった。
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