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悪の帝王
あくのていおう
作品ID61391
副題10 第10話 クライソリン株式会社
10 だいじゅうわ クライソリンかぶしきかいしゃ
原題THE MASTER CRIMINAL: X. "CRYSOLINE LIMITED"
著者ホワイト フレッド・M
翻訳者奥 増夫
文字遣い新字新仮名
初出1898年
入力者奥増夫
校正者
公開 / 更新2022-04-01 / 2022-03-26
長さの目安約 18 ページ(500字/頁で計算)

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本文より

第一章
 この数カ月、突如大宣伝をぶった新薬といえば、最新最強のクライソリン薬以外にない。効能書きは驚くべきものだ。心臓病から脳卒中まで何でも、この特効薬が一本あればころりと直り、値段はたった二十五セントと激安で、普通の人が普通の暮らしをしていれば買えるほど安いとか。
 今までこれほど巧みな宣伝はない。ほらふき、つまり広告屋に、高額費用を払い、広大なアメリカで実に斬新かつ衝撃的に訴えた。六カ月間で、クライソリン薬の製造元は宣伝に二十五万ドル使った。
 全米の隅々から感謝礼状が続々届いた。クライソリン薬は、ねんざ、やけど、うちみのような怪我に間違いなくよく効く。売り上げは疑いない。たった半年で、所有者は巨大な事業を造り上げた。
 そんな商売をしている限り、グライドはご満悦だ。クライソリン薬の調合を、はした金で買い取った本当の目的は、クレードルストン石油王の眼をそらし、隣地で盗掘するためだった。
 あとは知っての通り、偶然の産物だ。クレードルストンから分捕った数百万ドルが自由に使えるから、なんでもできる。
 だから、明晰な頭脳で計画を巡らせ、閃いた方法が更に巨額、確実、有利と悟るや、にんまりほくそ笑んだ。
 持ち前の猪突猛進と馬力で、新事業に打って出た。並の男なら実績に安住したろうが、グライドはそうじゃない。狩猟本能がそうさせない。
 その間、機が熟しつつあった。世の中で一番抜け目のない人種、つまりウォール街の株屋を喜ばせる頃合いだ。グライドが話したら石油王のクレードルストンはせせら笑った。両者は最近よく会っており、クレードルストンに敵意はないものの、この一番で自分の金を取り戻そうと堅く誓っていた。
 だから数日後、サン新聞を読み、揉み手でニヤニヤ。グライドのやり方が分かり始めた、いや少なくともそう思った。グライド、別名マナーはクライソリンを株式会社にしようとしている。新薬社長マナーはウォール街と取引するだろうし、取引は実に厳しいから、もし徒党を組めば、マナーを破産させないでおくものか。
 クレードルストンが独り言。
「頭のいい奴はいつもやり過ぎて失敗する。奴は商売に専念すべきだ。三か月で身ぐるみはがしてやる。金を取り戻し、おまけにクライソリン社も手に入れてやる」
 こうしてクレードルストンはクライソリン社の目論見書を全部読んで、改めて確認した。そこに書かれた金額は間違いなくニューヨークの一流公認会計士が認めたもの。
 のっけから特効薬は儲かっているようだ。六月は十万ドルの利益が出ている。経営者の予想によると、平均すれば初年度利益は百五十万ドルに達するとか。従って、二千万ドル公募は、もっともなように思われる。東のニューヨークから西のサンフランシスコまで、どの有名新聞にも広告を載せた。
 一株十ドルで資本金を公募している。クレードルストンはサン新聞の宣伝費をすぐ調…

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