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「百日物語」あとがき
「ひゃくにちものがたり」あとがき
作品ID61424
著者中谷 宇吉郎
文字遣い旧字新仮名
底本 「百日物語」 文藝春秋新社
1956(昭和31)年5月20日
入力者砂場清隆
校正者木下聡
公開 / 更新2025-04-11 / 2025-04-10
長さの目安約 3 ページ(500字/頁で計算)

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本文より

 この『百日物語』は、昨年の七月から九月にかけて、『西日本新聞』に連載したものである。そのうち、種が外に書いたものと重複した分を、五六篇だけ差しかえた。しかし大部分は、掲載の順序のまま、この本に納めた。
 書きかけて間もなく土佐へ行き、歸ってすぐアメリカの學會に出かけたので、大半は、旅行中に書いたものである。最終回のところで、一寸觸れておいたが、アメリカから、航空便で毎日或は隔日くらいに原稿を送って、それが一回の故障もなく間に合ったのであるから、世界もずいぶん狹くなったものである。
 狹くなったというのは、飛行機が速くなったせいばかりではない。それが毎日精確に運行されている點が、大切なのである。それには機體やエンジンの整備とか、地上の施設とか、通信連絡とか、萬般のことが、揃っていなければならない。そして、それよりも大切なことは、社會に組織と秩序とが、きちんと立っていることである。敗戰後十年のうちに、日本もずいぶん整って來たものと感じている。
 お蔭で、方々の土地も見られ、又いろいろな人にも會うことが出來、有難いことと感謝している。世の中は廣大なもので、いろいろな人が、いろいろなことをしている。風俗もちがい、人情もちがうが、人間というものは、皆底には善意をもっている、という氣が、この頃して來ている。この百回の隨筆は、そういういろいろな話を集めたものである。
『新しい國』は、この前にアメリカへ行った時に、『暮しの手帳』や『心』に送った通信を集めたものである。昭和二十七年から二十九年にかけて、二年あまり、家族をつれてアメリカへ行き、シカゴ郊外のウィネツカという住宅區域に住んだ。その時に書いた見聞記の大部分は、既に『知られざるアメリカ』に收めたが、この分が殘っていたので、本書の中に入れておくことにした。『百日物語』の後半とつながりがあるので、丁度よい場所のように思われたからである。
 印刷にされた文章のうちには、作品即ち藝術として價値のあるもの、論説として自分の意見を述べるもの、ニュースを報道するものなど、いろいろある。隨筆なども、もし良く出來れば、作品の中に入れてよいであろう。しかしそれ等とは別に、いろいろな變ったことを傳える「話」があってもよいように思われる。「ほう、そんなこともあったのか」という程度のことで、別に大した話ではないが、それだけに害もない。いわば毒にも藥にもならない話を集めたものがあってもよさそうな氣がする。百回の隨筆を頼まれた時には、そういう話を少し集めてみようと思ったのであるが、書いてみたら、やはり所々に臭味が出て來て、さらりとした話にはなかなかならないものだということが分った。それに本人は珍しい話と思っているのに、實はちっとも珍しくない話もまじっていることであろう。もっともその方は御愛嬌と言えないこともない。
 まあそういうつもりで書いたもの…

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