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安倍さんとタゴール
あべさんとタゴール
作品ID61428
著者中谷 宇吉郎
文字遣い旧字新仮名
底本 「百日物語」 文藝春秋新社
1956(昭和31)年5月20日
入力者砂場清隆
校正者木下聡
公開 / 更新2023-05-07 / 2023-05-01
長さの目安約 5 ページ(500字/頁で計算)

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本文より

 先日安倍(能成)さんが見えていたと思ったら、もう今日屆いた『心』の五月號に、安倍さんを圍んでの皆さんの座談會の記事が載っていた。アメリカと日本との距離も、ずいぶん近くなったものである。
 安倍さんは、非常に元氣で、方々アメリカを見て歸られたから、御土産話がたくさんあることと思うが、その中に決して出て來ない話を一つ紹介しよう。というのは、安倍さん自身が御存じのないことなのである。一寸變った話で、安倍さんが居眠りをしているうちに、タゴールになったという話である。
 少し突飛な話なので、まずこの町のことから説明する必要がある。ここのウィネツカという町は、金持がたくさん住んでいるので、税金の集りがよいと見えて、贅澤な施設がたくさんある。その中でも、教育に妙に力瘤を入れていて、たいへんな設備をもった學校を二つもっている。一つはクロー・アイランドという小學校で、今一つはニュー・トリアという高等學校である。教育方針がひどく變っていて、いわゆる新教育を徹底的にやっている。小學校の方がとくに目立つのであるが、一番の特徴は、個性を重んずるというので、少し大袈裟にいえば、生徒一人一人について、その才能に應じた教育をしようというのである。
 うちの末っ子が、このクロー・アイランド小學校へ通っていて、その受持の先生、ミセス・ヘンダースンとは、家庭的にもかなり親しくつき合っている。なかなかの美人で、初等教育の方では、よく知られた人だそうである。先日大英百科映畫會社で、『プラス・マイナス』という、算術を取扱った教育映畫を作るとかいって、わざわざクロー・アイランドのミセス・ヘンダースンの教室と指定して、ロケに來たくらいであるから、相當有名なのであろう。
 ところで、この先生が、安倍さんのことを女房からきいて、一晩そのうちへよんでくれた。相客は、その小學校の校長さんであった。この校長さんは、ミス・カーズウェルといって、英國生れの人である。これがなかなかの大物で、國際聯盟華かなりし頃に、ジュネーヴに行っていたことがある。その頃ジュネーヴには、聯盟のおえら方の子供たちのために、特別な學校があったので、その學校の校長さんをやっていたそうである。クレマンソーでも、ロイド・ジョージでも、みな個人的に知っているので、話がなかなか大時代である。
 ジュネーヴでは[#「ジュネーヴでは」は底本では「シュネーヴでは」]、新渡戸さんも、杉村陽太郎さんもよく知っていて、とくに杉村さんの家庭とは、かなり親しくしていたそうである。安倍さんは、杉村さんとは、一高時代から知って居られたというので、この校長さんは、安倍さんに會うのを、樂しみにしていたわけである。
 ミセス・ヘンダースンの家は、イリノイ南部で、大きい農場を持っているので、いわばアメリカの健全な中産階級に屬する人である。ホテルの料理には飽きられただろうから、純…

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