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社交税
しゃこうぜい
作品ID61453
著者中谷 宇吉郎
文字遣い旧字新仮名
底本 「百日物語」 文藝春秋新社
1956(昭和31)年5月20日
入力者砂場清隆
校正者木下聡
公開 / 更新2025-11-21 / 2025-11-21
長さの目安約 4 ページ(500字/頁で計算)

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本文より

 シカゴの街は、ミシガン湖に沿って、南北にずっとのびている。このミシガン湖にすぐ沿ったところが、シカゴの銀座通りであって、豪華なホテルや、高級品を賣る有名な店が、たくさん竝んでいる。シカゴには、もちろん高島屋や三越に相當するデパートも、立派なものがいくつかあるが、それ等は、この湖岸通りから一段内側の大通りにある。そういうデパートなら、われわれ日本人も、たまにははいることも出來るが、海岸通りの店へは、決して足踏みしてはならない。其處はとんでもないところなのである。
 實は、知人の夫人で、裁縫が非常に巧くて、この高級服裝店へ勤めている人がある。先日話のついでに、娘たちが來たら、一枚くらいは、そういう店で作った餘所行きも必要でしょうかね、と聞いてみた。そしたら、とんでもない、一寸したスカート一枚でも、三百弗はとられますよということであった。スカート一枚十萬圓以上もしては、なるほどこれは別の世界の話である。
 もっとも話をきいてみれば、それも當然なのであって、こういう店は、服裝店というよりも、むしろ娯樂場なのである。まずドアを開けてはいると、黒い服を着た男と、その助手の女とがとんで來て、一室に招じ入れる。この二人は、最後までつききりなのである。たいていは、顏見知りの番頭がつくのだそうであるが、この點は、昔の日本とよく似ている。
 ところで、多くの場合、別に何が必要だというのではないので、まあこの頃の流行は、というような、話をしているうちに、マネキンが、御客樣の氣に入りそうな服を着て現われる。それがいろいろなポーズをしてくれるのを、見ているうちに、自分がそのマネキンのような姿の良い美人になったような錯覺に、次第に陷って行く。そこで隣りの料理店へいいつけて、高級葡萄酒と、つまみものとを持って來させ、その葡萄酒を、番頭にも、マネキンにも振舞いながら、次ぎ次ぎと新流行の服をマネキンに着せてみて、何時間でもねばるのだそうである。
 こういう風にして、十分遊んだら、最後にどれか一着註文することにして、御歸館ということになる。こういう店でも、初めから身體に合せて註文ということは少いらしく、たいていは、半製品になっているらしい。もちろん巴里の型などを參考にして、初めから仕立てさせることもあるが、そういう場合は、假縫いの時に、こういう場面が展開されるわけである。
 日本では何というか、最後に身體に合せて、少し形を變更する仕事、即ちオートレーションの部に、この友人の夫人は勤めているわけであるが、服がその部へ廻って來ると、ことの如何に拘らず、一着について、五十弗チャージすることになっているそうである。極端な場合は、袖を一寸ちぢめるだけでOKという時でも、五十弗、即ち二萬圓近くここでとられてしまう。もっと極端な場合は、巴里で買って來た服を、念のため今一度オートレーションに來る場合などは、壁…

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