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すいばくのへいわりよう |
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| 作品ID | 61456 |
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| 著者 | 中谷 宇吉郎 Ⓦ |
| 文字遣い | 旧字新仮名 |
| 底本 |
「百日物語」 文藝春秋新社 1956(昭和31)年5月20日 |
| 入力者 | 砂場清隆 |
| 校正者 | 木下聡 |
| 公開 / 更新 | 2026-06-26 / 2026-06-25 |
| 長さの目安 | 約 3 ページ(500字/頁で計算) |
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今度のジュネーヴ會議で、新しい問題が一つ提出された。それは水爆の原理が、原子力の平和利用に適用されるか否かという問題である。
現在世界中でやかましく論議されているのは、ウラニウム爆彈の原理を用いて、新しい動力源をつくろうというのである。アメリカにしても、ソ連にしても、また英國でも、現在唱えられ、且つ着手されているのは、全部ウラニウム原子の分裂に伴なうエネルギーを使うやり方である。日本でこの數ヵ月來新聞を賑わして來た原子力發電も、もちろんこの方法である。
ところが水爆の方は、水素原子二個を融合させてヘリウム原子をつくる時に、放出されるエネルギーを使う。ウラニウムの場合とは、いわば逆の作用を利用するのである。この方が千倍も大きいエネルギーを出すので、水爆の方が、恐るべき猛威をふるうわけである。
この水爆反應の方は、非常に扱いにくいので、今までのところは、それを平和目的に使う方法のめどがつかなかった。平和目的というのは、この莫大なエネルギーを瞬間的に出させないで、定常的に出させるという意味である。
もしそれが可能になれば、ウラニウム原子の分裂を利用する現在のいわゆる「原子力發電」は、ひどく舊式なものになってしまう。ウラニウムなどほとんど必要がなくなるかもしれないので、それこそ動力界に於ける大革命である。
この水爆の平和利用については、今までどこの國でも、一言も發表していない。そういう研究をやっているのかどうかも、皆目分からなかった。ところが、今度のジュネーヴ會議に際し、新聞記者會談があったが、その席上アメリカの原子力委員會會長シュトラウス氏が、初めてこの問題について發言をして、大いに注目をひいた。
それは質疑應答の形でなされたので、もちろん内容の詳細などには觸れていない。しかしアメリカの原子力委員會は、現在その主力をこの研究に向けていること、研究の規模は大體原爆製造計畫に似たものであること、研究は或る程度進歩していることが明らかにされた。もっとも不可能ということが分っても、それも進歩の一つとしての話である。
日本では、ウラニウム利用の原子力發電を受け入れるか否かが、大分問題になっているが、世界の方は、その又一歩先をどんどん進んでいるという氣がする。
「附記」この原稿を書いたのは、昨年八月のことであるが、半年後の今日には、もうこの話に、具體性が出て來たようである。未だ確かなことは分からないが、去る一月末の新聞には、アメリカで水爆發電の可能性が認められたという記事が載っていた。あまりにも急激な進歩で全く見當がつかないが、とにかく恐るべき話である。
昭和三十一年二月四日記