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離婚とダイヤモンド
りこんとダイヤモンド
作品ID61502
著者中谷 宇吉郎
文字遣い旧字新仮名
底本 「百日物語」 文藝春秋新社
1956(昭和31)年5月20日
入力者砂場清隆
校正者木下聡
公開 / 更新2026-05-29 / 2026-05-24
長さの目安約 3 ページ(500字/頁で計算)

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本文より


 カリフォルニア州の向う側、ネヴァダ山脈を越したところに、ネヴァダ州がある。面積はほぼ日本と同じであるが、人口わずか二十五萬人くらいしか住んでいない。全州がほとんど沙漠になっていて、それ以上は、人間の住めないところである。雨は年中ほとんど降らず、ネヴァダ山脈に冬の間に降った雪が、春先になって解けて流れ出る。その水が得られるところだけに、人間が辛うじて生活している。
 そういうところであるから、地下資源が少しあるだけで、農作物などは非常に少ない。州の財源はほとんどないので、苦しまぎれに、まことに妙なことを考え出した。それは離婚業による收入を、州の財源にしようという案である。
 アメリカでは、離婚が非常に多いが、法律がなかなかやかましくて、そう簡單に離婚の判決は下さない。それでネヴァダ州では、その州民は夫婦兩人のサインだけで、簡單に離婚できるという法律を作った。例えばニューヨークあたりの金持夫婦が、離婚しようという相談になったら、二人で離婚旅行にネヴァダ州へ出かける。そして州一番の都、リノの町へ着いたら、まず住民登録をする。そしてホテルで待っていると、三週間か四週間すると、ネヴァダ州の住民權が得られる。そうすると、裁判所へ行って、二人でサインするだけで、簡單に離婚が成立するのである。この滯在期間中、ホテルは豪奢なのがたくさんあり、賭博は全部公許であって、夜晝の差別なく遊べるようになっている。どうせ何もすることはないので、そういうところでじゃんじゃん金を使う。それが州の一番の「外貨獲得」なのである。
 いよいよ許可の期限になると、兩人で裁判所へ行くのであるが、そのすぐ前に、ネヴァダ山脈の雪解け水が流れている川がある。ツラツキイ川といい、その橋を渡ったところに裁判所がある。ところで離婚が成立して、再びこの橋に差しかかると、夫人の中には、婚約の時に貰ったダイヤモンドの指輪を拔いて「もう私は自由になった」といって、その指輪を川に投げ込む人があるそうである。
 よくしたもので、この川下には、その指輪を拾うために、小さなざるで川さらえをしている男がいる。二人や三人はいつでもやっているが、年に一つくらいは本當に拾えるそうである。少くも何千ドルというダイヤモンドであろうから、年に一つ拾えば、結構商賣になるわけである。もう六年昔の話であるが、リノのネヴァダ大學に暫くいた頃、この話を聞いて、質問を出したことがある。ダイヤモンドの指輪を拔いて、抛る氣持になるのは分るが、抛ったことにして、ポケットに入れて歸ったらどうだろうというのである。そうしたら友人は「そんな氣持が殘っているようでは、離婚は出來ないだろう」といっていた。



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