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アイクと鳩山さん
アイクとはとやまさん
作品ID61504
著者中谷 宇吉郎
文字遣い旧字新仮名
底本 「百日物語」 文藝春秋新社
1956(昭和31)年5月20日
入力者砂場清隆
校正者木下聡
公開 / 更新2025-03-28 / 2025-03-20
長さの目安約 3 ページ(500字/頁で計算)

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本文より


 今度の四巨頭會談で、アイクはついに、世紀の大政治家の列に加わったようである。チャーチルの格になったと、歐洲の言論界では、言っているそうである。
 先年の大統領選擧で、アイクは初めかなり苦戰であった。相手のスティヴンソンは、ウィルソンの再來といわれる人で、現代アメリカの知性を代表する人とされている。一度テレビで、スティヴンソンの演説をきいた人は、一遍でスティヴンソン黨になってしまう。南部の黒人の票は、大勢を左右するともいわれるが、スティヴンソンが一度南部を回ると、黒人の間にも、彼の人氣が壓倒的になって來る。一度アイク危しとまで言われたものであるが、最後に蓋をあけてみたら、アイクが「地すべり的」の大勝利になって、報道界なども、あっと言ったものであった。
 その理由として、二つ擧げられているが、一つは「もし自分が大統領になったら、朝鮮の戰爭は止めてみせる」という、アイクの聲明が、大いに効いたのである。アメリカ國内では、とくに婦人の間には、朝鮮戰爭は非常に不人氣であった。韓國人のために、自分の夫や戀人が死ぬことを、皆が喜ばなかったからである。
 今一つの理由は、スターリン(当時まだ生きていた)やチャーチルと、互角に話の出來る人というとやはり「アイゼンハウァーしかない」という漫然とした國民の氣分が、彼を支援したのである。この支援が間違っていなかったことが、今度の四巨頭會談で立證されたわけである。甚だ非科學的な表現であるが、國家間の交渉にも、最後は人間が出て來るし、人間となると、個人の「力」が、けっきょくものをいう。時期を見るというようなこともこの力の中にはいる。
 それは必ずしも、軍事力を背景とした力であるとは限らない。知性も、權力も、その他いろいろな力もあるが、それらを綜合した、或いは超越した「人間の力」があるような氣がする。スターリンやチャーチルは、それをもっていたが、アイクも大いに有望らしい。もしそうだったら、彼を選んだアメリカ國民は、大人であったことになる。
 ところで日本はどうかというに、鳩山さんは、非常に人柄はよいし、皆に好かれているが、力の點では、かなり懸念されている。もっとも、責任の一部は、ジャーナリズムにあるので、讃美歌をうたったり、日ソ交渉の悲願を述べる演説の中で、涙を流したりするようなことを、あまり書き立てるので、國民もついそういう懸念をもつようになるのである。
 世界はこのごろ非常に狹くなっているので、世界の中の日本としても考えねばならないし、そうかといって、國内情勢からみると、いろいろな複雜なこともあるし、なかなか話はむつかしい。



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