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ジュネーヴの原子力会議
ジュネーヴのげんしりょくかいぎ
作品ID61516
著者中谷 宇吉郎
文字遣い旧字新仮名
底本 「百日物語」 文藝春秋新社
1956(昭和31)年5月20日
入力者砂場清隆
校正者木下聡
公開 / 更新2025-05-20 / 2025-05-18
長さの目安約 3 ページ(500字/頁で計算)

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本文より


 ジュネーヴにおける原子力平和利用の會議は十二日間にわたって開かれたが、日本の新聞では、この會議の記事が、大々的に報道されたことと思う。
 アメリカの新聞でも、もちろん相當なスペースを割いて報道していたが、扱い方はいかにもアメリカ流である。シカゴ・デイリイ・ニュースには、これを米ソ原子力競技に見立てた記事が出ていた。ジュネーヴ會議を、アメリカではどういう風に受取っているか、ということは、日本の讀者にも興味があることと思われるので、概略をちょっとお傳えする。もちろん内容については、責任をもたないので、ただアメリカでどういう風に考えられているかを傳えるだけである。
 第一に、過去一週間にわたるソ連の原子科學者の講演を、アメリカ側の科學者が檢討した結果として、ソ連の原子力關係の研究は、遙かにアメリカよりも後れているという結論を出している。
 一、サイクロトロン、シンクロトロンなどの粒子加速裝置による研究は、原子力利用の基礎研究として、一番大切である。この方面では、二五%の分野でソ連がアメリカより進歩しているが、七五%の分野ではアメリカが進んでいる。
 二、原子力の醫療方面への利用では、ソ連は十年前のアメリカの研究をしている。
 三、動力用原子爐については、講演内容も、また公開しているモデルも「非常に單純なもの」である。しかし金曜日に紹介された重水利用の原子爐の内容を檢討した結果、ソ連もそれほど遲れているわけではなく、一二年もすれば、アメリカに追いつくであろうという結論になった。
 四、水素爆彈の原理は、原子を融合させるので、ウラニウム爆彈の原子を分裂させるのとは、全く異なる作用である。融合の方が、分裂の場合よりも千倍も大きいエネルギーが出る。この水爆の原理を平和利用に用いる研究は、ソ連はずっと遲れている。
 だいたい以上の四ヵ條をあげて、アメリカ側が遙かに進歩していると強調していた。どこの國の新聞でも、自國の方をひいきして報道するのが當り前だから、アメリカの新聞が、アメリカが遙かに進んでいるといっても、何も不思議はない。ソ連の方では、ソ連がアメリカよりも數等前進していると、書いていることであろう。
 日本では、原子力平和利用の研究は、ソ連の方が進んでいると思われている。原子力發電所の建設は、ソ連の方が早いので、そういう意味では本當である。しかし研究自身は、アメリカでも、最初の原爆完成後間もなく着手されていたので、相當進んでいても變ではない。



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