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作品ID | 61553 |
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著者 | グリム ヴィルヘルム・カール Ⓦ / グリム ヤーコプ・ルートヴィッヒ・カール Ⓦ |
翻訳者 | 矢崎 源九郎 Ⓦ |
文字遣い | 新字新仮名 |
底本 |
「グリムの昔話(2)林の道編」 童話館出版 2000(平成12)年12月10日 |
入力者 | sogo |
校正者 | 木下聡 |
公開 / 更新 | 2024-12-16 / 2024-12-11 |
長さの目安 | 約 2 ページ(500字/頁で計算) |
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ある商人が、市へ行きました。うまく商売をして、もっていった品物を、みんな売ってしまいました。おかげで、さいふは金貨やら銀貨やらで、いっぱいにふくらみました。
商人は、日の暮れないうちに、家へ帰ろうと思いました。そこで、金貨をいれた旅行かばんを馬にのせて、でかけました。お昼になり、商人は、とある町でひとやすみしました。やがて、またでかけようとすると、その店の下男が、商人の馬をひいてきて、
「だんな。左の後足の金靴の釘が、一本ぬけていますよ。」と、いいました。
「いや、ぬけていたってかまわんよ。これから、まだ六時間ばかり乗っていくんだが、そのあいだぐらいは、金靴も落ちはしないだろう。わしは今、いそいでいるんでな。」
と、商人は答えました。
商人は、お昼すぎにも、また、馬からおりてやすみました。馬にも、えさをやらせました。
すると、その店の下男が、商人のいる部屋にはいってきて、いいました。
「だんな。あの馬の左の後足の金靴が、とれていますよ。鍛冶屋へつれていきましょうか。」
「いや、とれていたってかまわんよ。まだ、二、三時間は乗っていかねばならんが、そのくらいは、金靴がなくてもだいじょうぶだろう。わしは今、いそいでいるんでな。」
と、商人は答えました。
こうして、商人は、馬に乗ってでかけました。しかし、いくらも行かないうちに、馬は足をひきはじめました。足をひいているうちに、こんどは、つまずきはじめました。つまずきつまずき、行くうちに、とうとう、馬はばったりたおれて、足を一本折ってしまいました。
こうなっては、しかたがありません。商人は、馬をそのままにしておいて、かばんを馬からおろすと、肩にかつぎました。それから、てくてく歩いて、夜おそくなってから、やっと、家にたどりつきました。
「あの、いまいましい釘のおかげで、さんざんなめにあってしまった。」
と、商人はひとりごとをいいました。
”いそぐときには、まわり道でも安全な道をえらぶほうが、かえって早い。“というのは、このことですね。