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![]() ひとつめ、ふたつめ、みつめ |
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作品ID | 61554 |
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著者 | グリム ヴィルヘルム・カール Ⓦ / グリム ヤーコプ・ルートヴィッヒ・カール Ⓦ |
翻訳者 | 矢崎 源九郎 Ⓦ |
文字遣い | 新字新仮名 |
底本 |
「グリムの昔話(2)林の道編」 童話館出版 2000(平成12)年12月10日 |
入力者 | sogo |
校正者 | 木下聡 |
公開 / 更新 | 2024-06-03 / 2024-06-02 |
長さの目安 | 約 19 ページ(500字/頁で計算) |
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昔 むかし、ひとりの女の人がいました。この人には、三人の娘がありました。
いちばん上の娘は、ひたいのまんなかに、目がひとつしかありませんでした。それで、みんなから、ひとつ目、とよばれていました。
二番めの娘は、ふつうの人間とおなじように、ふたつの目をもっていました。それで、ふたつ目、とよばれていました。
いちばん下の娘は、目が三つありました。それで、三つ目、とよばれていました。この娘の三番めの目は、やっぱり、ひたいのまんなかにくっついていました。
さて、ふたつ目だけは、ちょっと見たところ、ほかの人間とすこしもかわりありません。それで、きょうだいからも母親からも、きらわれていました。みんなは、ふたつ目に向かって、しょっちゅう、こういうのです。
「おまえは、なんだい。目がふたつあって、まるで、いやしい人間どもとおんなじじゃないの。あたしたちのなかまじゃないよ。」
こういっては、みんなで、ふたつ目をいじめるのです。着るものも、ひどい服しかやりませんし、食べるものも、自分たちの食べのこしたものしか、やらないのです。こうして、みんなは、ふたつ目にひどいことばかりしました。
あるときのことです。ふたつ目は、野原にでてやぎの番をするように、いいつかりました。けれども、おなかがすいてたまりません。むりもないのです。姉さんも妹も、ほんのわずかの食べものしかやらないのですからね。
ふたつ目は畑の畦にすわって、しくしく 泣きだしました。ふたつの目から、涙があふれてきました。やがて、涙はふたつの小川となって、ながれ落ちました。泣き悲しみながら、ふたつ目は、ふと 目をあげてみました。すると、すぐそばに、ひとりの女の人が立っています。
「ふたつ目や。おまえ、なにを泣いているの。」と、その女の人がたずねました。
ふたつ目は答えました。
「だって、泣かずにはいられませんもの。あたしはふつうの人間とおなじように、目がふたつあります。それで、姉さんからも妹からも、お母さんからもきらわれて、みんなにいじめられてばかりいるんです。それに、着るものもお古しかもらえませんし、食べるものだって、みんなの食べのこしたものしかもらえないんです。今日なんて、あんまりすこしでしたから、おなかがすいてすいてたまらないんです。」
すると、その女の人がいいました。
「ふたつ目や、涙をおふきなさい。わたくしがいいことを教えてあげますから、これからは、そんなに、おなかがすいてたまらないようなことはないでしょう。
おまえのやぎに、こういいなさい。『メエメエ やぎさん、テーブルだして』。
そうすれば、きれいな布のかかったテーブルが、すーっと、おまえのまえにでてきますよ。テーブルの上には、びっくりするほどおいしいごちそうが、たくさんたくさん、ならんでいます。おまえは、それをおなかいっぱい、食べていいんで…