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![]() あくのていおう |
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作品ID | 61557 |
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副題 | 11 第11話 東女帝丸不明 11 だいじゅういちわ とんじょていまるふめい |
原題 | THE MASTER CRIMINAL: XI. THE LOSS OF THE "EASTERN EMPRESS" |
著者 | ホワイト フレッド・M Ⓦ |
翻訳者 | 奥 増夫 Ⓦ |
文字遣い | 新字新仮名 |
初出 | 1898年 |
入力者 | 奥増夫 |
校正者 | |
公開 / 更新 | 2022-05-01 / 2022-04-26 |
長さの目安 | 約 18 ページ(500字/頁で計算) |
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第一章
グライドが自分のクラブで、ミネリア国大使を晩餐に接待していた。ここでグライドはデュマレスク伯爵と称し、最近英国に赴任した南米財務長官という触れ込みだ。
普段は慇懃無礼に振る舞い、仲間内と距離を保ち、あれこれ詮索されないようにしていた。あとは細身、褐色の肌、ボタン穴に何かの外国爵位勲章をかけ、ひけらかしている。
相手のミネリア国のドン・マルコス大使も細身の褐色肌、目が狡猾で、評判は芳しくない。長いこと資本家と渡り合い、本国の国債は投機的だったが、このドン・マルコス大使ほど破廉恥でずうずうしい嘘つきは無駄に生きちゃいない。
目下、二千万ポンドほどの英国資金が小国ミネリアに投じられていた。ミネリア国大使は極貧のオリバー・ツイストよろしく、もっと金を求めた。
どうしても五百万ポンド必要だったが、一千万ポンド要求したあげく、二百万ポンドせしめた。シティー側は大変歩が悪い。
よぼよぼあひることマルコス大使は自国の財政などそっちのけで決着をつけたがった。一層厄介だったのはミネリア国が隣国カタゴニアと海亀漁のことで戦争寸前なことだった。
マルコス大使は進退極まった。颯爽と乗り込んだものの、ランバード街でむなしく過ごすばかり。金鉱専門家は大使持参の貴重な鉱石を調べ、南アフリカのケープ由来かと問う始末。
クルミを食べワインを飲みながら大使は喋った。同胞のデュマレスク伯爵がひどく同情して、ミネリア国家財政の驚くべき事を漏らしたので、大使が不安になった。
「いやあ、怖いお方だ」
とマルコス大使がつぶやいた。
デュマレスク伯爵が景気づけにほほ笑み、
「そんなに驚かなくてもいいでしょう。愛国者になる義理はありませんが、私の話を聞けば納得されるでしょう。国家の運命がかかっているとなれば、勇気リンリン、カタゴニア人は嫌いですから」
大使がギクリ。実際、伯爵は全てお見通しだ。
「喧嘩してるのをご存知で?」
と大使が探りを入れた。
伯爵が煙草を振って、
「二か月前から、いがみ合っているでしょう。現状では見通しは暗いですな」
「あと百万あれば、安心なのですが、欲しいのは……」
伯爵が割り込んで、
「戦艦でしょう。大戦艦が一隻あれば不埒者をやっつけて、一カ月で片が付きますよ」
「全くすごいお方だ。閣下のご推察通りです」
「調べましたからね。必要な船は完全装備で百万ポンドぐらいでしょう。軍艦の船員とか、士官は大した問題じゃありません。高給目当ての連中が当然集まります。必要な船に現金でいくら払えますか」
「英国のベルファストに二十万ポンドありますから残りは保証します。みんな眼の前で大喜びするでしょう」
とマルコス大使がほとんど泣かんばかりに答えた。
デュマレスク伯爵がテーブルを回り、声を落とし、ささやくように言った。
「もし現役の最新軍艦を一隻引き渡したら、私に…