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悪の帝王
あくのていおう
作品ID61558
副題12 第12話 マルコス将軍
12 だいじゅうにわ マルコスしょうぐん
原題THE MASTER CRIMINAL: XII. GENERAL MARCOS
著者ホワイト フレッド・M
翻訳者奥 増夫
文字遣い新字新仮名
初出1898年
入力者奥増夫
校正者
公開 / 更新2022-06-01 / 2022-05-27
長さの目安約 18 ページ(500字/頁で計算)

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本文より

第一章
 クレタ島の騒動が大きくなった。連日クロニクル新聞がいきり立ち、英国に行動を求めたが、世間は平常通り。分別のある人々が興奮しない理由は、高慢ちきなギリシャ人が名声と、クレタ島の両方を狙っていたからだ。
 だが解放の為に、今なお何千という人々が金も同情も得ようと虎視眈々だった。そしてクロニクル紙アテネ特派員発、マルコス将軍が英国へ渡航中と報じるや、ちょっとした興奮が人道主義者たちの感情をゆさぶった。
 マルコス将軍の任務は二つ。一つは古代ギリシャ領土問題を明確にすること。もう一つは同時に大義の寄付金を集めること。だって明らかに、かの有名戦士の子孫たちは実際ひどい金欠だもの。
 将軍は俳優の素質があり、戦いの素養もちょっぴり持ちあわせ、この遠征で数千ポンド集金したいと思っていた。
 とても残念なことに、スター紙もクロニクル紙も将軍の写真を読者に提供できなかった。将軍が忽然と、無名から実在の名士となって登場したからだ。緊急電報がアテネへ打たれ、写真を送れとせっついた。
 その間、狡猾な頭脳をフル回転して、抜け穴を探す者がいた。
 これぞ山師にとって格好の材料と、究極のお宝が口を開けており、グライドの意にぴったりだ。事件を期待して東部くんだりへ下向し、失望している風情なんてない。
 クロニクル紙特派員が居たのは奥地、実際はマルコス将軍の邸宅、そこに写真の依頼が来た。
 一団の中にアメリカ人従軍記者ホレース・メルビルという男がいた。ここで立場を明らかにした方がよかろう。メルビル記者とグライドは同一人物だ。クロニクル紙特派員は、この陽気なアメリカ人をなんて気まぐれなんだと思っていた。
 クロニクル紙特派員が言った。
「まったく、写真はうかつだった。将軍のは必要だ。だがどうやってアテネへ運ぶ。一両日ここを離れられないし、そのあと将軍の出発時に海岸へ行く予定だし……」
 メルビル記者が即答した。
「俺が行くよ。あの山脈を一人で行くのはちょっと危険だが、俺なら抜けられる。ギリシャには何度も来ているんだ」
 野次馬権現の弟子たる特派員がメルビル記者に心から感謝した。いま両手は実際塞がっており、将軍のつたない英会話の指導中だ。
 そのうえ海岸線では英国船が貝の密漁や海賊行為をしている。
「君はいい奴だ。申し出を受けよう。原稿も一袋渡してかまわんだろ。中に写真を入れるから」
 グライドがその旨を約束した。聞くところ一週間後に将軍は俺の行く同じ道を海岸へくだる。
     *
 グライドはあたかも背中を夜叉に押されるかのように脇道にそれた。アテネへ直行するわけじゃない。現地人の召使いもだ。ちょっとやることがある。踏み固まった轍を外れ、山奥へ乗り込むと、やがて夜がふけ始めた。
 召使いルリと、ご主人グライドが必死で馬の手綱を引く場所は荒涼として無人だ。はるか高みに山々が連なり、…

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