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あなたと原子爆弾
あなたとげんしばくだん |
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作品ID | 61559 |
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原題 | YOU AND THE ATOMIC BOMB |
著者 | オーウェル ジョージ Ⓦ |
翻訳者 | The Creative CAT Ⓦ |
文字遣い | 新字新仮名 |
入力者 | The Creative CAT |
校正者 | |
公開 / 更新 | 2022-06-25 / 2022-06-04 |
長さの目安 | 約 8 ページ(500字/頁で計算) |
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私たち全員が五年以内に粉々になってしまう可能性をいかに高めるか。この点から見ると、原子爆弾に関する議論は予想外に盛り上がっていない。新聞には、陽子や中性子の働きに関する、一般人にはさして有用ではない図表がごまんと載っているし、この爆弾は「国際的な管理下に置かれるべきである」という無駄な主張がひたすら繰り返されている。だが不思議にも、誰もが最も気にしている次の疑問点についてはほとんど語られない。とにかく出版はされていない。すなわち:「それを作るのはどれほど困難なのか。」
私たち――つまり巨大大衆――はこの疑問点についての情報をいささか間接的に受け取っている。トルーマン大統領がソヴィエト連邦に対してある種の機密事項を伝えないという決定をした件からだ。数ヶ月前、原爆がまだ噂に過ぎなかった頃、次のような話が広く信じられていた。曰く、原子の分裂はもっぱら物理学者たちの課題に過ぎず、一旦それが解決されれば、ほとんど誰もが破滅的な新兵器を手にすることができるだろうと。(噂によれば、頭のイカれた孤独な研究者が、いつか打ち上げ花火なみにたやすく文明を粉微塵にするかも、といった具合に。)
仮にそれが正しいとすれば、歴史の歩み全体が突如として変わったことだろう。大国と小国の間の差は拭い去られ、個人に対する国家の権力も大幅に弱まったはずだ。しかしながら、トルーマン大統領の発言およびそれに対する様々なコメントからみて、この爆弾は途方もなく高価であり、膨大な工業的努力をつぎ込むことを要し、これに耐えるだけの国家は世界で三ないし四しかないらしい。極めて重要な点である。というのも、それが意味するのは、原子爆弾の発見は歴史の歩みを逆転するどころか、この十数年の傾向を単に強化するだけになる、ということだろうから。
文明の歴史は概ね武器の歴史である、というのはよく言われることだ。火薬の発見とブルジョワジーによる封建制度の転覆との関連については何度も何度も指摘されてきた。例外は無論あろうが、思うに次の規則は総じて正しいのではないか:主たる武器が高価ないし製造困難な時代は専制政治の時代であり、主たる武器が安価で単純な時は民衆にチャンスがある。例えば戦車・戦艦・爆撃機は生まれつき専制君主の武器であり、一方ライフル銃・マスケット銃・長弓・手榴弾は民主制の武器である。複雑な武器は強者をより強くし、単純な武器は――対抗手段がない間だけだが――弱者に鉤爪を与える。
民主制と民族自決主義の黄金時代は、マスケットとライフルの時代だった。フリントロックの発明から雷管の発明までの間、マスケットはとても効果的な武器であり、また同時に、ほとんどあらゆるところで製造可能だった。この二つの性質の組み合わせによって、アメリカとフランスの革命が可能になったのだし、民衆蜂起が今日よりも由々しい事態だったのだ。マスケットの…