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ドレントン・デン特派員の冒険
ドレントン・デンとくはいんのぼうけん
作品ID61681
副題02 第二回 赤い斑点
02 だいにかい あかいはんてん
原題BEING AN ADVENTURE OF DRENTON DENN, SPECIAL COMMISSIONER: THE RED SPECK
著者ホワイト フレッド・M
翻訳者奥 増夫
文字遣い新字新仮名
初出1899年
入力者奥増夫
校正者
公開 / 更新2022-08-18 / 2022-08-16
長さの目安約 19 ページ(500字/頁で計算)

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本文より



 やせ細った褐色の手はぼろきれのようにしおれ、その手でドレントン・デンが飲んだキニーネは普通の人なら発狂する。
 デンが歯を食いしばりながら、
「マダガスカルへ誘い込んだ男に破滅を。従軍記者で連れてきたくせに、ろくな戦争もなければ、記事を送る機器すらない。熱病にかかったら、平然と海岸へ送り返せだと」
 レバ大尉が案じてぶるった。ドレントン・デンをパリから誘い、タマタブで生々しいことが起こると、まことしやかに口約束した張本人だ。
 レバ大尉がおずおず、
「百六十キロメートルぽっちだよ」
 ドレントンがうめいて、
「百六十キロだと。熱病が治ってもこの先、何もすることがない。来た道は戻れん。カナカ族の小僧どもがどうやってタラへ連れて行くか、さっぱりわからん」
「でも、デンさんはここに居られない」
「ああその通り。一番いいのは海岸へ戻ることだ。しかも敵対部族を突っ切る。噂ではハマ族の酋長は女で、パリ製のガウン服を着て、専用シャンペンを取り寄せるってのは本当か」
 レバ大尉が歯を見せ、目の覚めるような笑顔で、
「そのようですよ。覚えておられるかな、あのハマ族のすごい女を。サビナとかいったが、二年前ムーラン・ルージュで蛇と鳥の超魔術を見せた女だよ」
 デンがうなずいた。はっきりあの女の衝撃的な魔術を思い出した。りりしい女がデンとの間にもたらしたものは何と言うか、純粋な精神的友情だった。
 思い出してちょっと赤面した。浅黒いハマ族の心根に触れた結果、一番いいのはバカなことをしでかさないうちにパリをいさぎよく離れることだった。
「この近くにいると思うか」
 とデンが訊いた。
「確かですよ。サビナがもめごとを起こしてすぐパリを離れてから自分の部族のここへ戻っているはず。タラへの脱出を手助けしてくれるんじゃないかな」
 翌朝デンは危険な旅に出立した。案内はカナカ族の小僧が八人、元気がよく、石炭のように真っ黒で、報酬を弾む主人に忠実だ。だが、前進は腹が立つほどのろい。というのも原生林を切り開いて道を造らねばならなかったし、道具はといえば商人から買うありさまだ。
 四日目の終わり、デンもあきらめ始めた。十キロ以上進んでない。魚の干物と米が少なくなり、水袋にしわが寄り、たるんできた。
 危険だ、とても危険、こんな原始林の中では飢餓と渇きが死を招く。カナカ族だけはバカげた経験則のたぐいで本能と忠告に頼ることができよう。
 デンは厳しい顔で、夕食の米粒をふるい果たすのを見ていた。
 デンがブツブツ、
「あした食糧が尽きる。サビナの噂を信じた俺はなんて馬鹿だ」
 だが翌日、事態は良くなった。森の薄暗闇がだんだん消え、前方に金色の陽光が木々の枝から差し込んだ。そして一行は平原に出た。
 小川が盆地沿いに流れ、斜面というか、向かい側の空き地に、竹と草で作った小屋が多数あった。
 先導する…

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