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錬金術師
れんきんじゅつし
作品ID61894
原題The Alchemist
著者ラヴクラフト ハワード・フィリップス
翻訳者Morishous T.H.E creative
文字遣い新字新仮名
入力者Morishous T.H.E creative
校正者
公開 / 更新2022-11-22 / 2022-10-26
長さの目安約 18 ページ(500字/頁で計算)

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本文より

 高嶺に、草茂る鬱蒼とした大小の丘々を越え、根を深く張る節くれだった現生林を横に、先祖の宮は佇んでおります。数世紀の間、この城は山野を支配し城壁の苔むすよりも遥かに永きに渡り、ある誉れ高きある名家の繁栄と生活の砦となっておりました。これら古き砲塔は、鈍重ながら強力に流れる時の嵐に削られ錆びついているにせよ、封建の時代フランス全土で比類なき荘厳さと重圧を兼ね備えた姿をとどめています。機械のような正確さと無慈悲さでもって切り詰められた胸壁と欄干から、男爵、子爵、侯爵、果ては王様までを相手取り、数多の敵を迎え撃ちましたが、結局、城の大広間の静寂を破り、その足音が城内に響くことは今に至るまでもただの一度も在りません。
 しかし過去の栄光もやがて去りゆきました。どうにか生活を送れるより少しばかりましな収入を元手にしては、名ばかりとなった名家の矜持が俗世の商業的な行いを妨げる中において、私の代までもっともらしい遺産を手つかずのまま残すことは叶いませんでした。崩れかかった石の壁、庭園で伸び放題の植物達、渇き砂塵のたまった堀、悪くなった小道の舗装、外部の崩壊の兆しは塔だけでなく、腐食し沈んだ床板や、虫食いの当て板、色あせたタペストリといった内部まで。全てが堕落しゆく暗澹たる悲壮を示しながら、壮大な物語の足跡を見せるのです。時代が進むにつれ、計四つあった砲塔が一つ、また一つと崩れ、最後に残された塔のたった一本に、このかつて趨勢を誇った一族の、不幸な末裔が身を寄せている次第です。
 この陰々滅々とした城に残された塔の暗く広い一室こそ、暗く、呪われの「C」の家系、コンテステ家の生き残りである私アントワーヌの、またこの事でさえ九〇年前の話となりますが、生まれ、初めて目にした光景でありました。この城の中、そして暗い影の伸びるかの森、下った先の丘の中腹にある誰も知らない洞窟と荒涼の渓谷と小動物が、私の人生における病んだ幼年期の担い手でした。私は両親の顔を知りません。私の父は、私が生まれるひと月前、三二歳の時に城壁の崩落に巻き込まれ死に、母も私の誕生と同時に亡くなり、私の世話だとか、教育だとかは、私がピエールと呼んでいた記憶がありますが、そのとても頭の切れる老年の召使い独りの手に委ねられる事となりました。私に兄弟はなく、またそのため極端に人との関りが欠如し、また年老いた保護者によって行われた奇妙な教育のために助長され、丘のふもとを囲む平野に散在する農民の子らとの交流は全くありませんでした。当時ピエールは私に、私の由緒ある生まれが彼ら平民の中で浮いているため、不便が起こるのだろう、などと説明しました。今となって、それは閉じられた村の炉端で農民らの曽祖父よりも前の代より語り継がれたであろう、城に住まう一族にまつわる呪われた噂を、彼が私の耳からごまかすためだったのだと思います。
 この隔絶から…

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