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もしも世界
もしもせかい |
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作品ID | 62103 |
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副題 | マンダプーツシリーズ 第1回 マンダプーツシリーズ だいいっかい |
原題 | The Worlds of If: Manderpootz Series |
著者 | ワインバウム スタンリー・G Ⓦ |
翻訳者 | 奥 増夫 Ⓦ |
文字遣い | 新字新仮名 |
初出 | 1935年8月 |
入力者 | 奥増夫 |
校正者 | |
公開 / 更新 | 2023-01-03 / 2022-12-31 |
長さの目安 | 約 27 ページ(500字/頁で計算) |
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スタテン島空港へ行く途中で停止して、電話したのが間違いなく失敗だった。別な機会にできたのに。だが、空港は愛想よかった。係員が言った。
「出発を5分待ちましょう。これが私どものできる精いっぱいです」
そこで、タクシーに大急ぎで戻って、3速でぶっ飛ばし、彗星のようにスタテン橋に突っ込み、鋼鉄の虹橋に踏み込んだ。
モスクワで開催されるウラル・トンネル入札式に、夜の8時までに間違いなく出席しなければならなかった。
政府は入札代理人の出席を求めたが、俺を出張させるなんて、会社はもっとよく考えなくちゃ。俺はディクソン・ウェルズ、会社はN・J・ウエルズコーポレーション、つまり父のだが。
俺には何事にも遅刻するという悪い評判があった。いつも何かしら起こって、時間到着を妨害する。
決して俺の落ち度ではない。今回は恩師のハスカル・ヴァン・マンダプーツ物理学の老教授に会える機会だった。
先生に会えたら、単に、やあ、さようなら、じゃ済まないだろう。2014年の学生時代は先生の寵児だったのだから。
案の定、定期旅客機に乗り遅れた。スタテン橋の途中で発射轟音が聞こえ、ソ連のバイカルロケットがゴーッと上空を長い炎を引きながら曳光弾のように飛んで行った。
会社はとにかく契約した。ベイルートの社員を引っ張ってモスクワへ飛ばせたが、俺の評判はガタ落ち。
しかしながら、夕刊を見たら、すごくいい取引をした気がした。
バイカル機が嵐を避けるために、東境界線の北端を飛んでいる時、イギリスの貨物機と翼が接触し、乗客500人のうち100人を除く人命が失われたという。
俺はもう少しで残酷な意味『故・ウェルズ氏』になるところだった。
次の週、マンダプーツ老教授と約束できた。教授は新物理学、つまり相対性物理学部長として、ニューヨーク大学に移籍したようだ。
教授にはその資格がある。老教授は、いるとしたら過去に1人、そして今なお天才だ。俺は大学を出て8年経つが、技術教育課程で微積分とか蒸気ガスとか機械などの6つの関門より、教授の授業のほうがずっと記憶にあった。
というわけで、火曜日の夜、1時間ばかり遅れたが、実を言うと、夜まで約束を忘れていたからだ。
教授は昔同様の散らかった部屋で、本を読んでいた。
「ふーん、時はすべてを変えるが癖は別だな。ディック、君はいい学生だったが、思い起こせばいつも講義の半ば頃来ていたな」
「直前まで東棟で受講していました。とても間に合いそうにありませんでした」
「そうだな、君も時間を守る努力をする時だ」
教授は小言を言ってから目を輝かせて、時間、と叫んだ。
「時間という言葉は言語の中で最高に魅力的だ。会話の冒頭で5回も使ったが更に6回、7回と使う。お互い時間は理解できるが、科学は時間の意味を研究し始めたところだ。科学か? わしが学び始めたということじゃ…