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理想
りそう
作品ID62104
副題マンダプーツシリーズ 第2回
マンダプーツシリーズ だいにかい
原題The Ideal: Manderpootz Series
著者ワインバウム スタンリー・G
翻訳者奥 増夫
文字遣い新字新仮名
初出1935年9月
入力者奥増夫
校正者
公開 / 更新2023-02-01 / 2023-01-28
長さの目安約 36 ページ(500字/頁で計算)

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本文より

「これは自動機械だ。正しい時に話し、いかなる質問にも答え、全ての秘密を明らかにする」
 フランシスコ派の修道士が微笑みながら、台座に鎮座する金属製の頭に優しく手をおいた。
 若者は口をぽかんとあけて、銅像の頭と修道士を交互に見つめて言った。
「でも、金属です。頭は金属です。神父様」
 ロジャーベーコンがのたもうた。
「金属は外側で、仕掛けは内側だ、若者よ。正しい時に独自の方法で話すように作ってある。賢人は悪魔の技を神の領域にねじ込み、悪を排除する。シーッ。静かに。夕拝の鐘が鳴っている。恵み溢れる処女マリア様」
 だが、話さなかった。何時間も、何週も、驚嘆博士は銅像を見守ったが、金属の唇は黙り、金属の眼はうつろ。ただ偉大なる男が修道院で話す声のみ聞こえ、いかなる質問にも答えなかった。
 ついにある日、机に座り研究を行いながら、遠方ケルンに住むドゥンス・スコトゥスに手紙をしたためていたその日、銅像が優しくほほ笑み、こう叫んだ。
「時は今!」
 修道士が見上げた。
「時は今、まさしくそうです。時こそあなたが発した言葉、そしてある意味、時ほどわからないものはない。もちろん、時には何もないのだから。時なしでは」
 銅像が吠えた。
「時は過去!」
 銅像は微笑んでいるが、ドラコン像のように毅然としている。
 修道士が答えた。
「まさしく時は過去。時は、過去、現在、未来なり。なぜなら時は事象を生じる媒体なり。物質は宇宙に存在する。しかし事象は」
 銅像はもう微笑んでいない。
「時は過ぎた」
 と吠える銅像の口調は屋外にある大聖堂の鐘のように渋い。
 そして爆発して、何千個もの破片に散った。

     ***

 ハスカル・ヴァン・マンダプーツ老教授が本を閉じながら言った。
「どうだ。わしの実験には古典的な裏付けがある。この物語には中世の神話や伝説が混ざっているが、ロジャーベーコンが実験して失敗したことを証明している」
 教授は人差し指をふって注意した。
「ディクソン君、ベーコン修道士が偉大じゃないと思っちゃいかんぞ。事実、偉大だ。彼が松明をともしてくれたおかげで同姓のフランシス・ベーコンが4世紀後に取り上げて、今ヴァン・マンダプーツが再挑戦する」
 俺は黙って見つめた。
 教授が再び口を開いた。
「実際にロジャーベーコンは13世紀のヴァン・マンダプーツと呼ばれるかもしれない。あるいはわしが21世紀のロジャーベーコンと呼ばれるかもしれない。『大著作』、『小著作』、『第三著作』……」
 俺はイラついて口を挟んだ。
「何の関係があるんですか。あれに」
 研究室の片隅に立っている不格好な金属ロボットを指さした。
 マンダプーツ教授がかみついた。
「さえぎるな。わしは……」
 このとき、俺は椅子から飛びあがった。金属の塊が突然、アーガーラースというような声を発し、窓際へ1歩踏み出…

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