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金の羽根
きんのはね
作品ID62105
原題Piuma d'oro
著者カプアーナ ルイージ
翻訳者田原 勝典
文字遣い新字新仮名
初出1894年
入力者田原勝典
校正者
公開 / 更新2023-05-28 / 2023-05-15
長さの目安約 19 ページ(500字/頁で計算)

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本文より

 昔あるところに、月にもお日さまにも増して美しい一人娘をお持ちの王さまとお妃さまがおりました。娘はたいそうおてんばで、宮殿中の物をひっくり返しては大騒ぎをしていました。
 気まぐれでわがままなこの娘のことを、子供のすることだとして、両親は一つも叱りませんでした。娘が何をしでかしても、二人は笑って見ているのでした。
「おやおや、何ておてんばな娘じゃ! まあまあ、何ておてんばな娘なの!」
 そんなある日、二人に、娘を甘やかした報いに涙する出来事が訪れたのです! 王さまが狩りに行こうとした時、宮殿の正門の前に、ぼろぼろの服をまといひどく腰の曲がった老婆が、杖に寄りかかって立っていました。
「どうかしましたか、ご婦人?」
「王さまに、お目通りしたく」
「私が、その王じゃが」
 老婆は、王さまに丁寧なおじぎをすると、一通の手紙を差し出して言いました。
「これは、スペイン王の筆によるもの」
 手紙には、この老婆を一晩宮殿に泊め、思いのままに過ごさせてやってほしいとあり、そしてこう続いていました。
「どこから来て、どこへ行くのかと尋ねぬこと。決して、この方の礼節を無にすることなきよう」
 王さまは、からかっているのかと思い、家臣に命じて、老婆に屋根裏の小部屋と召使いたちと同じ食卓をあてがうよう計らいました。
「ありがたや、陛下さま」老婆は、言いました。
 そして、身をすぼめて屋根裏部屋に入って行きました。
 老婆が召使いたちの食卓の隅っこで、縮こまって食事をしていると、あの王女である一人娘が、塩入れと胡椒入れを傾けてここぞとばかりにスープの中へ塩と胡椒を流し入れました。
「どんなお味かしら!」
 召使いたちは、一様に笑って言いました。
「こりゃまた、お嬢さま! あれまあ、お嬢さまったら!」
 老婆は息をするのもおぼつかないまま、スープを口にしました。自身の思いとは裏腹に。
 王さまとお妃さまは、その話を聞くと、召使いたちと同じように笑って言いました。
「おやおや、何ておてんばな娘じゃ! まあまあ、何ておてんばな娘なの!」
 老婆が食卓から立ち上がり、杖を探そうとしますが見当たりません。暖炉の中に目を向けると、そこに半ば炎の回った杖があるではありませんか。あの王女の娘っ子が、身をよじって笑いながら言いました。
「暖かいわ、こうした方がいいと思って」
 すると、召使いたちが一様に笑って言います。
「こりゃまた、お嬢さま! あれまあ、お嬢さまったら!」
 老婆は、炎の中から取り出した杖に寄りかかり、台所を去って行きました。自身の思いとは裏腹に。
 王さまとお妃さまは、その話を聞くと、召使いたちと同じように笑うのでした。
 翌朝、立ち去ろうとする老婆は、階段の踊り場で待ち構える王女を見つけました。

「お婆さん、どこから来て、どこへ行くの?
お婆さん、記念に何か置いて行かないの?…

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