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観点
かんてん
作品ID62111
副題マンダプーツシリーズ 第3回
マンダプーツシリーズ だいさんかい
原題The Point of View: Manderpootz Series
著者ワインバウム スタンリー・G
翻訳者奥 増夫
文字遣い新字新仮名
初出1936年
入力者奥増夫
校正者
公開 / 更新2023-03-18 / 2023-02-28
長さの目安約 28 ページ(500字/頁で計算)

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本文より

 ハスカル・ヴァン・マンダプーツ大教授が吠え、研究室内の一角を不機嫌にいらつき、俺をしばらく睨みつけた。
「わしは謙虚過ぎた。困ったもんだ。わしの業績を過小評価したため、コーベイルのようなつまらん物真似屋が委員会に働きかけてモレル賞を取りおって」
 俺は落ち着かせるように言った。
「でも、教授はモレル物理学賞を6回も受賞されました。いくらなんでも毎年はやれませんよ」
 教授が気色ばんだ。
「なぜだ。わしが受賞に値することが明白からか。わかるかディクソン。わしは謙虚だ。たとえコーベイルのような思い上がりの馬鹿者が受賞しようが、奴の着想はわしに比べ底なしの屁理屈だし、賞をもらっても栄誉は何の自慢にもならん。バーカ。あんなわかりきった研究に賞を与えるなんて、言うのも憚るし、モレル賞判定も露骨さがわかっていたろうに。思考子の研究だと、ええ! 誰が思考子を発見した? マンダプーツさま以外誰だ?」
 俺は慰めるように、
「それは去年教授が受賞されたものでしょう。つまり、教授の謙虚や寛容は偉大さの象徴じゃないですか」
 マンダプーツ大教授の機嫌が直った。
「そうだ、そうだ。わしより劣った男がこんな恥辱を受けたら、間違いなく重病になる。でもわしはならん。とにかくわしの経験上、全然よくない。マンダプーツさまは偉大だが、スミレのように謙虚で内気だ」
 ここで教授は一息入れて、大きな赤ら顔をしおらしくしてみせた。
 俺は笑いをこらえた。老天才がずっと変人だと知っていたからだ。俺はディクソン・ウェルズ。機械工学の院生時代、この有名教授の下で新物理、即ち相対性を受講した。
 教授は推測しがたい理由で俺が気に入り、卒業後、実験に加えてくれた。例えば「仮想機」とか、「理想変換機」だ。
 最初の思い出は見かけ上死亡した女と2週間後に恋に落ち、不名誉に苦しみ、2番目は同等かそれ以上の苦しみ、ないし不名誉だった。恋した女は存在しない、いや決して存在せず、存在しようのない、言い換えれば理想の女だった。
 たぶん俺は女性の魅力に弱いか、むしろ性癖かもしれない。だから理想変換機で痛い目にあってから、愚かさを厳しく過去に追いやり、テレビ役者、歌手、ダンサーなどをひどく嫌うようになった。
 そこで遅ればせながら、毎日まじめに過ごし、1回でもいいから事務所に定時出勤するべく本気になり、親父からどこへも間に合ったためしがないなどと次回言われないようにした。
 まだ成功していなかったが、運の良いことにN・J・ウェルズ・コーポレーションは俺ディクソン・ウェルズが常勤しなくても充分利益を出しながら生き残っていた。いや、常勤してもそう言えたかどうか。
 とにかく確かなことは、親父の好みは俺がマンダプーツ教授と夜を過ごして遅刻するほうで、嫌いなのはチップス・アルバやウィムジーホワイトなどテレビ界の女性らと過ごすほうだ…

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