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火星旅行
かせいりょこう
作品ID62126
副題惑星シリーズその1(火星前編)
わくせいシリーズそのいち(かせいぜんぺん)
原題A Martian Odyssey
著者ワインバウム スタンリー・G
翻訳者奥 増夫
文字遣い新字新仮名
初出1934年
入力者奥増夫
校正者
公開 / 更新2023-05-23 / 2023-05-15
長さの目安約 47 ページ(500字/頁で計算)

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本文より

[#ページの左右中央]


火星前編


[#改ページ]

 ジャービスはエアリーズ宇宙船の拘束総員配置で、思いっきり背伸びした。
「空気が吸えるぜ。スープのように濃いや。薄かったなあ、外は」
 うなずき指す火星の大地は、だだっ広く伸び、近接の月明かりで荒涼として、舷窓の向こうにあった。
 同情してじっと見つめる3人。技術者のプッツ、生物学者のリロイ、それにこの遠征隊の隊長兼天文学者のハリソン。
 ディック・ジャービスは名だたるエアリーズ探検隊の化学者。地球のお隣り、神秘的な火星に初めて足を踏み入れた人類だ。

 その昔、もちろん20年足らず前のこと、向こう見ずな米国人ドーニーが自らの命を犠牲にして原子力推進機を完成させ、わずか10年前に同じく向こう見ずなカードザがこれに乗って月まで行った。
 でも本当の開拓者はエアリーズ宇宙船の4人だ。
 別格は6回の月探検と、魅惑的な金星を狙って失敗したドランシー飛行だが、地球以外の重力をかみしめたのは彼らが最初だし、まさしく月・地球系を乗り超え、初めて成功した乗組員だ。
 そして、この成功が称賛に値するのは思うに、困難さと不快さだ。何ヶ月も地上の順応部屋で過ごしたり、希薄な火星の空気を吸う練習をしたり、ガタガタ反応モータ駆動の21世紀小型ロケットで宇宙に挑戦したり、全く見知らぬ世界に挑んだり……。

 ジャービスは背伸びをして、皮膚がむけた凍傷の鼻先を指で触った。満足げにまた息を吸った。
 ハリソン隊長が突然切り出した。
「ところで、何があったか聞こうじゃないか。君は予備ロケットで悠然と出発したが、10日間、行方知らずになったあげく、このプッツが変なアリ塚から君を見つけて拾った。仲良しの珍妙なダチョウもだ。さあ、しゃべり給え」
「シャベル? シャベルって何ですか」
 とリロイが当惑して尋ねた。
「話すことであります。語ることであります」
 とプッツがまじめに説明した。
 ジャービスは、ハリソン隊長が能面のまま一瞬面白がるのを見て言った。
「プッツのいう通りだ。私はシャベルであります」
 そして快活に話しはじめた。
「命令に従って、プッツが北へ離陸するのを見守り、それから自分のちっちゃな飛行艇に乗って南へ向かった。
 隊長、覚えているでしょう。着陸せず、面白そうな所を偵察せよという命令です。2台のカメラをセットし、カシャカシャ撮りまくり、ブンブンふかしてまわった。高度はちょっと高めのおよそ600[#挿絵]。理由の1つはカメラ視野を広く取ること、2つ目はここ火星の空気が半真空で、低く飛ぶと下向き噴射でほこりを巻き上げるからです」
 ハリソン隊長がブツクサ文句を言った。
「それはプッツから全部聞いた。フィルムは確保しただろうな。フィルムこそがこの旅行費用をまかなうのだぞ。覚えているだろう、最初の月面写真に大衆が群がったのを」…

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