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寄生惑星
きせいわくせい
作品ID62206
副題惑星シリーズその3 ハム&パット(金星前編)
わくせいシリーズそのさん ハムあんどパット(きんせいぜんぺん)
原題Parasite Planet
著者ワインバウム スタンリー・G
翻訳者奥 増夫
文字遣い新字新仮名
初出1935年
入力者奥増夫
校正者
公開 / 更新2023-07-16 / 2023-07-10
長さの目安約 51 ページ(500字/頁で計算)

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本文より

[#ページの左右中央]


ハム&パット
金星前編



[#改ページ]



 ハム・ハモンドの運が良かったのは、真冬に泥が噴出したことだ。金星で感じる真冬は地球で考えるような季節と全くちがう。地球の真冬はおおむね楽しめるが、おそらくアマゾン流域やコンゴの熱帯に住む人々は違うだろう。
 熱帯住民なら、一番熱い夏を思い浮かべて、金星の冬は獰猛で不快で気色悪い密林生物が盛夏の十数倍もいるのだろうと思いかねない。
 金星は現在よく知られているように、地球同様に季節が半球毎に交代するけど、大きな違いがある。地球では北アメリカやヨーロッパが夏の時、オーストラリアやケープ植民地やアルゼンチンは冬で、北半球と南半球で季節が交代する。
 だが金星ではとても奇妙なことに、東半球と西半球で季節が交代する。黄動面の傾きでなく、秤動によって、季節が左右されるからだ。金星は自転せず同じ面を常に太陽に向けており、ちょうど月が地球に表面を向けるのと同じ。片面は永久に昼、反対面は永久に夜で、薄明かり地帯にそって幅800[#挿絵]だけに人間が住め、この狭い領域が金星をぐるり取り囲んでいる。
 太陽が当っている側には砂漠の熱風が吹き、金星生物は少ししかいない。そして夜側は、上空の風が凝縮し、巨大な氷の壁で遮られ、絶えず熱半球の上昇気流が流れ込み、冷えて、下降し、また冷所から吹き返す。
 暖かい空気が冷えると雨になり、夜側の端には雨が凍って氷壁ができる。氷壁の向こうに何があるのか、凍結半球の漆黒の闇にどんなすごい生命が住んでいるのか、あるいは真空の月面と同じく死の世界なのか、いずれも謎だ。
 金星がゆっくり秤動し、不自然に横揺れするため、季節が生まれる。薄明かり領域のまず片半球から、雲隠れした太陽が15日間じんわり昇り、同じく15日間沈み、これをもう片半球で繰り返す。太陽は空高く昇ることはなく、ただ氷壁付近の水平線をなめるかのよう。というのも秤動がわずか7度しかないからだ。でも15日という季節を際立たせるには充分。
 ともかくも、こんな季節だ。冬の気温は32℃まで下がり、湿気が多いものの我慢できる。だが2週間後、灼熱地帯は60℃が涼しい日だ。そして年中、夏も冬も断続的に雨がじとじと降り、柔土に浸みこみ、蒸せかえり、不愉快で不健康な湿気が立ち込める。
 こうして、はじめて金星を訪れる人々はとてつもない湿気にびっくり仰天する。もちろん雲は見えるが、分光器でも水分は検出できない。というのも、分光器は上空80[#挿絵]に浮かぶ雲の反射光を分析するからだ。
 水分が豊富なため奇妙なことが起こる。金星には大海も海洋も存在しない。ただし夜側に存在すると思われる沈黙の巨大永久凍結海は別。昼半球は蒸発が強烈なために、雪山から流れ出た川はすぐに細り、最後には消えて枯れる。
 さらなる結果、薄明かり地帯の土壌が妙…

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