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ハス仙人
ハスせんにん
作品ID62207
副題惑星シリーズその4 ハム&パット(金星後編)
わくせいシリーズそのよん ハムあんどパット(きんせいこうへん)
著者ワインバウム スタンリー・G
翻訳者奥 増夫
文字遣い新字新仮名
初出1935年
入力者奥増夫
校正者
公開 / 更新2023-08-20 / 2023-08-29
長さの目安約 47 ページ(500字/頁で計算)

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本文より

[#ページの左右中央]


金星後編
ハム&パット


[#改ページ]

 フーッとため息をつきながら、ハム・ハモンドは右前方の観測窓からじっと眺めた。
「なんてえ場所だ、ハネムーンには」
「じゃあ、生物学者と結婚しないことね、むろん探検家の娘とも」
 と、後ろから生物学者のハモンド夫人が言ったが、灰色の瞳は窓ガラスに小躍りしていた。
 夫人のパット・ハモンドはハムと結婚するほんの4週間前まで、旧姓パトリシア・バーリンゲームと言い、偉大な英国探検家の娘であり、父バーリンゲームは英国のために金星の薄暮領域を大きく獲得し、まさしく合衆国のクロウリーに匹敵する。
「僕は生物学者と結婚したんじゃない。結婚した女性がたまたま生物に興味を持っていただけだ。それだけさ。きみの数少ない欠点だがね」
 ハムが下向きジェットを絞ると、ロケットは火炎のクッションに乗って徐々に降下し、真下の黒い台地に向かった。ゆっくり、慎重に、扱いにくい宇宙船を下げ、やがてかすかな振動を感じた。スパッと噴射を切ると、床が少し傾き、すさまじい轟音が止み、妙に辺りが静かになった。
「着いたよ」
「そうね、どこなの、ここは」
「ちょうどバリアの120[#挿絵]東、ビノーブルの反対側、英国領の寒帯だ。北側はたぶん永劫山脈、南側は神のみぞ知る。東側もそう」
「いい報告だこと、どこなんだか。さあ、部屋の明かりを消して、どことやらを見ましょう、ふふふ」
 部屋の明かりを消すと、暗闇の中に、舷窓からぼんやりと光の輪が広がった。
「共同探検するならロケットの丸屋根に登って、もっと広く見ましょう。調査に来たのよ。少し調べましょう」
「共同探検に賛成」
 とハムが含み笑い。
 ハムは暗闇でおしゃべりにニヤリ、パットは真面目に探検をとらえている。
 ここで正式名を使えば、2人は英国学士院と米国スミソニアン協会の共同探検隊であり、金星の暗黒側を調査する目的があった。
 もちろんハム自身は、厳密には米国探検隊の片割れであり、実際はパットが他人と思わなかったため一員になっただけだが、パットは髭づらの学士院教授たちの質問や課題、指示に応える立場にあった。
 そしてこれはほんの公平な扱いに過ぎず、最終的にはパットが熱帯動植物の最高権威であり、さらに金星で生まれた初めての子供であるのに対し、一方のハムは単なる技術屋、もともと金星辺境に釣られて来たのであり、てっとり早い金もうけを夢見て、熱帯でジックスチルを交易していたにすぎない。
 熱帯でパトリシア・バーリンゲームに出会い、永劫山麓へ危険な旅をしたあげく、パトリシアを口説き落とした。2人はアメリカの居留地、エロティアで1カ月足らず前に結婚し、暗黒側探検の誘いを受けた。
 ハムは招待に反対した。地球のニューヨークかロンドンで楽しい新婚旅行をしたかったが、無理だった。
 そもそも天文学的…

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