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もや惑星
もやわくせい |
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作品ID | 62208 |
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副題 | 惑星シリーズその5 ハム&パット(天王星) わくせいシリーズそのご ハムあんどパット(てんのうせい) |
著者 | ワインバウム スタンリー・G Ⓦ |
翻訳者 | 奥 増夫 Ⓦ |
文字遣い | 新字新仮名 |
初出 | 1935年 |
入力者 | 奥増夫 |
校正者 | |
公開 / 更新 | 2023-09-30 / 2023-09-19 |
長さの目安 | 約 50 ページ(500字/頁で計算) |
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[#ページの左右中央]
天王星
ハム&パット
[#改ページ]
[#ページの左右中央]
登場人物
ハム 男性(技術者)
カレン 男性(化学者)
ヤング 男性(探検家)
パット 女性(生物学者)
ハーバード 男性(宇宙飛行士)
[#改ページ]
ハミルトン・ハモンドがびくっとしたのは、探検隊の化学者カレンが持ち場の船尾から、こう電話したときだった。
「何か見えます」
ハムがかがんで、左舷を覗いて見た灰緑の霧は、永遠に天王星を覆っている。慌てて電子高度計を見れば、16[#挿絵]の静圧を示しているが、これが嘘である理由は、この値が250[#挿絵]の緩慢降下中、ずっと同じ値だったからだ。霧そのものが電波を反射している。
気圧計は86・2[#挿絵]を示している。この値も信用ならないが、高度計より増しな理由は、かの勇敢なヤングが40年前の2060年、タイタンからこの靄惑星・天王星の南極に突っ込んだとき、大気圧86[#挿絵]を記録しているからである。
いま宇宙船ガイア号は反対極の北極に着陸しようとしており、ヤングの着陸地から7万[#挿絵]離れており、どんな巨大な穴や山のせいで、こんな役立たずな数値が出るのか誰も知らない。
「何も見えん」
とハムがつぶやいた。
「私もよ」
と言ったパトリシア・ハモンドはハムの妻――公式にはスミソニアン協会ガイア探検隊の生物学者であり、にじり寄ってこう叫んだ。
「いいえ、何か動いている。上昇、上昇、上げて」
ハーバードは腕のいい宇宙飛行士だ。何も質問しないばかりか、制御盤から目を離さなかった。スロットルをぐいと引くと、噴射音が次第に大きくなり、上向きの推力で全員が床に激しく押しつけられた。
かろうじて間に合った。灰色の巨大波が左舷下をガバと襲い、余りにも近かったので、波頭が噴射で砕け、飛沫で窓が曇った。
ハムが息を吐いて、
「フー、近い、近すぎた。波に当たったら、確実に噴射口が壊れていた。噴射口は白熱している」
パトリシアがうんざりして、
「海よ。ヤングの報告では陸がある」
「ヤングが着陸した南極は7万[#挿絵]向こうだ。もしかしたら、ここの海は地球全体より広いかも」
パトリシアが眉をひそめて、
「ねえ、この霧は表面全部を覆っているの?」
「ヤングはそう言っている」
「でも金星で雲ができるのは、上昇風と下降風が交わる所だけよ」
「ああ、だが金星は太陽にずっと近い。ここ天王星の熱が一様な理由は、太陽が実質なんら貢献しないからだ。ほとんどの表面熱は内部からしみ出たもので、これは土星や木星と同じだが、ただ天王星は少し小さいので、ずっと冷たい。十分冷えているから、固体の地殻があり、ほかの大惑星のように溶けておらず、金星の薄暮地帯より、かなり寒い」
パトリシアが反論して、
「でもタイタンはロシアの…