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銀河のロマンス
ぎんがのロマンス
作品ID62443
副題(「天の河縁起」「天の川綺譚」)
(「あまのがわえんぎ」「あまのがわきたん」)
原題THE ROMANCE OF THE MILKY WAY
著者小泉 八雲
翻訳者林田 清明
文字遣い新字新仮名
入力者林田清明
校正者
公開 / 更新2023-09-26 / 2023-09-19
長さの目安約 39 ページ(500字/頁で計算)

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本文より

 日本で古くから祝われてきた魅力的な祭りはいろいろあるが、なかでも最もロマンチックなのはタナバタサマのお祭りである。けれど、今では大きな都会ではほとんど見かけなくなっている。げんに東京ではもうほとんど忘れ去られた有様である。それでも、地方や首都近郊の村に行けば今でも小規模ながら行われている。もし(旧暦)の七月の七日に、地方の古そうな町や村を訪ずれる機会があったら、読者諸氏はたぶん新しく切った青竹が屋根の上に取り付けられたり、あるいは家々の傍の地面に立てられたりしているのを見かけられるだろうし、それらの青竹には細長い色紙がたくさん結びつけられているのをご覧になるだろう。とても貧しそうな村ではこれらの短冊が白色であったり、一色だけであると気づかれよう。しかし、これらの細長い紙は普通は五色か七色である。青、緑、赤、黄色それに白色はよく飾り付けられている色である。これらの色紙にはなべてタナバタとその夫であるヒコボシを讃える短い詩句が書き付けられている。お祭りが済めば、竹は取り払われ、結び付けられた詩句の短冊も一緒に近所の川に流されてしまうのである。

 この古い祭の縁起となっている恋物語を理解するには、七月七日には宮中においてこれら星の神々にお供えをする行事が行われてきており、その故事を知る必要がある。伝説そのものは中国から由来したものであるが、日本で一般的に知られているのはつぎの物語である――
 天界の大神には、タナバタツメ(棚機津女)という可愛らしい娘があったが、父なる王のために一日中織物を織って暮らしていた。姫は自分のこの仕事を気に入り、喜んで機織をしている。ところが、ある日、王宮の戸口の織機の前に座っていると、若い農夫が牛を牽いて通りかかるのを見かけた。すると、この若者をすっかり気に入ってしまった。父なる天帝は、娘の密かな願いを察して、若者をその夫とした。けれど、結婚した若い二人は互いを好きで堪らず、天界の神への務めを怠った。やがて機織機の杼の音も聞かれなくなった。また、牛も放ったらかしにされて天界の草地をさ迷っている。このため天帝は快く思われず、ついには二人を別れさせになった。二人は以後、天体の川を挟んで別々に暮らすようにと申し渡された。ただし、一年に一度だけ、七番目の月の七番目の夜にだけ、互いに逢うことが許された。その夜には――夜空が澄んでいれば――天界の鳥たちがその体と広げた翼とで川に架ける橋を作るのであった。この橋を渡ることで恋する二人は逢うことができる。ところが、その夜が雨だったならば、天の川は水かさが増して川幅が広くなり、橋を作ることがもうできないほどになる。そういう風で、七番目の月の七番目の夜だったとしても、夫と妻が必ず逢えるとは限らない。天気が悪ければ、二人は三年も四年も会えなくなってしまうことがある。けれども、二人の愛はいつまでも若々しく、…

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