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赤ペリ
あかペリ
作品ID62454
副題惑星シリーズその6(冥王星)
わくせいシリーズそのろく(めいおうせい)
著者ワインバウム スタンリー・G
翻訳者奥 増夫
文字遣い新字新仮名
初出1952年
入力者奥増夫
校正者
公開 / 更新2023-10-29 / 2023-10-26
長さの目安約 82 ページ(500字/頁で計算)

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本文より

[#ページの左右中央]


冥王星



[#改ページ]

第1章
 オランダのロケット、アードキン号はミデルブルフ発の貨客船、慎重に降下中、霧と雲に覆われた地球が2万[#挿絵]下にあり、逆噴射で降下を支えている。この最後の区間は金星旅行でも難しい行程に相当する。
 というのも、葉巻大型ロケットは宇宙空間では素晴らしく早いけれども、強い重力場では手動操縦に頼るほかになく、エイク船長は中央ヨーロッパや中部大西洋のどちらにも降りたくなかったし、結果的に母港が嫌いじゃなかったからだ。母港ゼーランド州ミデルブルフに降りたかった。
 そのとき、右方向にとても奇妙な形の宇宙船が現われて、操縦室窓からわずか400[#挿絵]の所に見えた。エイク船長が興奮して怒鳴った。
「ぶちのめせ」
 不意に、わきの拡声器が命令した。
「噴射を止めろ」
 船長がやり返した。
「野郎め、ブタめ」
 2番目の悪口は、記録するには、ちょっときつ過ぎる。
 黒い空に機影が急に近づいてきた。今や視認できて、金属ロケットのように輝いているが、決して円錐型のアードキン号のようでもなく、ほかのロケットにも似ておらず、例外的だ。
 形は中空三角形、各角から太い梁が立ち上がり、頂点で合体している。要するに梁の側面が透けた四面体となっており、梁の焦点から、青い原子力噴射炎が放出され、宇宙空間へ扇風機のように広がっている。近づくにつれ、この妙な宇宙船は、巨大な貨客船アードキン号に比べれば小さくて、側面はせいぜい30[#挿絵]、8分の1の長さもない。
 再び拡声器からキンキン音がした。どうやら変な宇宙船の光線に反応しているようだ。
「噴射を切れ。噴射をとめろ、止めないと乗っかるぞ」
 エイク船長が罵詈雑言をやめて、深くため息をついた。海賊船の猛烈な噴射に自船を晒すつもりはない。わきの伝声管に命令を怒鳴ると、噴射轟音が止まった。鈍重貨客船にどんな機動力があろうが、いまや失われ、もはや敏捷な海賊船に体当たりを喰らわすチャンスはない。
 噴射が止まると、完全に無重力になり、自由落下となり、2万[#挿絵]落下には相当時間がかかってから、危険になる。エイク船長がまたため息をついて、床の電磁力を入れるように命令し、海賊船の指示を呆然と待った。
 なにはともあれ、貨物には保険がかけてあり、ボイズマリン社が損害補償するだろう。さらにボイズは英国の会社だから、船長は優良オランダ船を危険に晒す気はないし、良きオランダ船長を自称するならば、英国損害保険会社の損失を救う気なんか、さらさらない。
 操縦室の扉が開き、1等航海士のホーキンズが駆け込んで来て、叫んだ。
「どうした、噴射が止まったぞ」
 それから舷窓の向こうに、ギラギラ光る機体を見て、
「赤ペリ号だ、忌々しい海賊め」
 エイク船長は何も言わなかったが、薄青の瞳で不機嫌に見つめる先…

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