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変な衛星
へんなえいせい
作品ID62461
副題衛星シリーズその2(イオ)
えいせいシリーズそのに(イオ)
原題The Mad Moon
著者ワインバウム スタンリー・G
翻訳者奥 増夫
文字遣い新字新仮名
初出1935年
入力者奥増夫
校正者
公開 / 更新2023-12-20 / 2023-12-26
長さの目安約 40 ページ(500字/頁で計算)

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本文より

[#ページの左右中央]


イオ


[#改ページ]

 グラント・カルソープがわめいた。
「まぬけ、たわけ、ばか、あほう」
 もっと言葉がないかと探したが見つからなかったので、激怒のあまり、地面にこんもり置かれた草束を激しく蹴った。
 じっさい、蹴りが激しすぎた。またしても忘れていたのはイオの重力が3分の1しかないことだ。蹴ったあと、グラントの体全体が4[#挿絵]の長い弧を描いた。
 地面に着地すると、4匹のべらぼう達がニタニタ笑っている。べらぼう達のあほう顔はというと、子供の日曜風船に描かれたマンガ程でかくはないが、顔が一斉に左右に揺れ、首は長さ1.5[#挿絵]、細くてグラントの手首ほどだ。
 グラントがすっくと立ち上がって、激怒した。
「行け、失せろ、出てけ、去れ、チョコレートはやらん、飴もやらん。俺が欲しいのは強心草だ。お前らが持ってきた草じゃない。消えろ」
 べらぼうは学名『ルナエ・ジョビス・マグニカピテス』――文字通り「木星月のでか頭」――あとずさりしながらバツ悪そうにニタニタ笑っている。間違いなく、べらぼう達の考えではグラントも完全に馬鹿、怒りの原因もさっぱりわからない。でも、飴がもらえないことはよく分かり、激しい落胆の表情を呈した。
 事実、あまりに落胆したので、べらぼう達の親分は、青白い不細工な顔でグラントを馬鹿笑いしてから、一声荒々しく叫ぶや、光る石木に頭を打ちつけてしまった。仲間達が無造作に親分の死体を拾い上げて去っていく姿は、ズルズル引きずる首の頭が、鎖につながれた囚人球のようだった。
 グラントは額を手でぬぐい、よろよろと石木の丸太小屋に向かった。ギラギラ光る一対の小さな赤眼に気づいた。スリネズミだ。学名『ムス・サピエンス』――15[#挿絵]の体が敷居を飛び越え、骨皮の小腕は、まさに体温計ぐらいだ。
 グラントは怒って生き物を大声で叱りつけ、石をつかんで投げたが失敗。スリネズミは、やぶの端っこで、半人間のような鼠顔をグラントに向け、わけのわからないことを小声でチューチュー言いながら、小さなこぶしを握って、ヒトのように激怒して、コウモリのような皮膜をひらひらさせて消えた。まるで、黒鼠がマントを着たようだった。
 石を投げるなんて間違いだと知っている。もう、あの小悪魔はグラントを決して許すまい。小ざかしい知性と小さな体で、残酷に悩ますだろう。でも、スリネズミの仕返しも、べらぼうの自殺もどうってことない。というのも後者のような事例はちょいちょい目にしたからだ。さらにグラントは白熱病にかかったかのように頭がガンガンした。

 掘立小屋にはいり、扉を閉めて、ペットのバカ猫を見下ろし、どなりつけた。
「オリバー、お前はいいやつだが、なんでスリネズミを見張らんのか。何のためにここにいるんだ」
 バカ猫は強力な1本の後足で立ち上がり、2本の前足でグ…

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