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贖罪の墓標
しょくざいのぼひょう
作品ID62462
副題衛星シリーズその3(エウロパ)
えいせいシリーズそのさん(エウロパ)
原題Redemption Cairn
著者ワインバウム スタンリー・G
翻訳者奥 増夫
文字遣い新字新仮名
初出1936年
入力者奥増夫
校正者
公開 / 更新2024-01-28 / 2024-01-30
長さの目安約 56 ページ(500字/頁で計算)

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本文より

[#ページの左右中央]


エウロパ


[#改ページ]

 いままで、無一文、ひどい空腹、落胆、疎外、無視までされたことがあるか。ふりかえると2、3か月前、言葉にするのも難しいが、思えばどん底はヘンショウ船長が部屋に押しかけた夕まぐれ――部屋はと言えば、とうとう24時間猶予で明け渡すか、家賃を払うかだ。
 そこに座ってるのが俺ジャック・サンド、元ロケット操縦士。ああ、お察しのジャック・サンド、あのガンダーソン・エウロパ探検隊を墜落させた張本人、2110年3月、ロングアイランドのヤング飛行場に着陸するとき、ちょうど1年半前だ。15年に感じる。
 500日働いてない。18ヶ月間、友達からそっぽを向かれどおし、たまたま通りで出会ってもだ。その理由、臆病の札つき操縦士に会釈するのは恥だ、他の理由、親切心からわざと見ないふりをしている。
 扉のノック音がしても目すら開けない。家主の女しか心当たりがないからだ。文句を言った。
「金がなくたって、俺の勝手だ、無視する」
「君の勝手だ、馬鹿なまねをするのも。なんで皆に住所を知らせないんだ」
 その声がヘンショウ船長だった。
 俺は思わず叫んだ。
「船長、どうしたんですか。船長も墜落したんで? クズの俺んちへ集合ですか」
 と苦笑いして訊いた。“船長”と呼びかけるのは宇宙船に乗ってるときだけだ。それから俺は我に返った。
 船長が言った。
「仕事を持ってきた」
「ええっ。じゃあ、けっこうな仕事でしょうねえ。砂を運んで、飛行場の穴を埋めるとか。喉から手が出そうだが、それほどじゃあ」
「操縦士の仕事だ」
 とヘンショウ船長が冷静に言った。
「誰が臆病のキズもの操縦士を欲しがりますか。どんな組織が臆病船を信頼しますか。知らないの? ジャック・サンドは永久に札付きだってこと」
 船長が一喝。
「だまれ、ジャック。持ってきた仕事は私の配下の操縦士、新エウロパ衛星探検隊だ」
 とたんに、カッカし始めた。だろ、木星第3衛星エウロパからの帰途、ガンダーソン隊を大破させたのが俺。だから、船長があざけりに来たのだと歪曲した。金切り声を上げた。
「まったく、からかおうとするんだから」
 だがそうじゃなかった。船長が本気だと分かって俺が落ち着くと、船長がゆっくり言葉を継いだ。
「ジャック、信頼できる操縦士が欲しい。私はなにも知らんのだよ。君がヒイラ宇宙船を墜落させたことは。その時、私は金星へ飛行中だった。君が信頼できることしか知らない」
 ようやく、船長を信じ始めた。ショックから少し立ち直り、ヘンショウ船長がとても友好的なので事実を打ち明けようと思った。

「聞いてください、船長、評判やすべてを受け入れようとされていますので、どうやら説明のし甲斐がありそうです。墜落させたことに泣き言は言ってこなかったし、今もそうです。私が壊したのはガンダーソン隊長と…

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