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潮汐衛星
ちょうせきえいせい
作品ID62463
副題衛星シリーズその4(ガニメデ)
えいせいシリーズそのよん(ガニメデ)
原題Tidal Moon
著者ワインバウム スタンリー・G
翻訳者奥 増夫
文字遣い新字新仮名
初出1938年
入力者奥増夫
校正者
公開 / 更新2024-02-28 / 2024-02-17
長さの目安約 32 ページ(500字/頁で計算)

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本文より

[#ページの左右中央]


ガニメデ


[#改ページ]

 乗合自動車の中は暖房されているけど、アマーストがぶるっと身震いしながら、にこっと笑ったのはハイドロポール街の凍てつく尖塔が目に入ったからにほかならない。
 極都市ハイドロポールに戻ってくるのは、いつもうれしいし、たとえ唯一の楽しみが高層ビル群を眺めるだけであっても、はるか8億[#挿絵]先、太陽方向に浮かぶ灰色惑星、つまり地球の故郷シラキュースのようだもの。
 木星第3衛星ガニメデの南極都市ハイドロポールは一年中凍てついた街、平均気温-1℃、温度変動はわずか±3℃。でも衛星で実質上唯一の居留地であり、まさに都市の名に値する。
 アマーストは4地球年の間、この水衛星でクリー社の収集人として働き、町から町へ貴重な薬用苔を集め、ロケット基地ハイドロポールに持ち込み、地球へ輸送している。
 何百人といるクリー社収集人の中の1人であり、独自の路線をもち、それぞれの方法で町々を収集し、各自の海馬に乗り、凶暴な洪水をかわしているが、時として縦谷に何億トンもの水が襲いかかり、予告なしに山腹を破壊することがある。
 でもハイドロポール市内だけは安全だ。南極にあるから大洪水が襲わない。大洪水は木星が強大な引力で引っ張るために、このちっぽけな衛星を3か月毎に1周する。
 その結果、ハイドロポール市内と、周囲数[#挿絵]にしか植物は生えない。例外は奇妙なクリーという苔、この苔は岩山の割れ目にぴったり張り付いているので、さしもの強烈な潮汐力でも剥がされないし、巨大灰色岩盤を割ることもできない。
 従って、ガニメデにおいては、すべての生き物が青苔のクリー苔を軸にして回る。
 その昔、ガニメデの先住民ニンパス達がこの苔を地下深く持ち込み、忌まわしい村の岩盤に幾層も積み重ね、地面を造った。ハイドロポールの狭い領域から種を集め、ここに少品種の食物を育て、生活している。
 地上の苔は濃い青色をしている。地球の地衣類リトマス苔で染色したリトマス試験紙が、色変化で酸やアルカリを検知するように、ガニメデのクリー苔はこの衛星のアンモニア大気に反応する。
 地下の空気は人工的に造られているため、アンモニアがないので、地下の苔は赤色だ。実際、地上の山のクリー苔すらも、水素含有の大洪水に洗われたあとでは短期間だが赤色になる。
 ちょっと前までは苔を収集する期間がとても限られていた。赤色苔は薬効が欠乏しているのに対し、青色苔はアンモニア大気に化学反応するという理由や、内部に卵を抱えているという理由で、効能が優れ、地球の需要が多い。
 しかし現在、カール・ケントが処理方法を開発したため、赤色クリー苔でも薬効が得られるようになった。だから、アクァイア居留地にあるカール・ケントの小取引場では青色苔と同じように赤色苔も集めている。

 乗合自動車はハイドロポ…

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