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ぬめり海
ぬめりかい
作品ID62680
副題怪奇シリーズその2
かいきシリーズそのに
原題Smothered Seas
著者ワインバウム スタンリー・G
翻訳者奥 増夫
文字遣い新字新仮名
初出1936年
入力者奥増夫
校正者
公開 / 更新2024-04-27 / 2024-04-16
長さの目安約 52 ページ(500字/頁で計算)

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本文より



 時は2000年。アメリカは戦時下にあり、全力でアジア連合と戦っていた。でもアメリカ人は軍の将校ですら休養する余裕があった。休養は必須であり、すさまじい戦いから心を癒やしてくれる。
 リチャード・リスター中尉は水泳パンツを履き、浜ゴザに座り、サンフランシスコ湾外にあるシールロックスで、沖合の太平洋を不機嫌に眺め、日焼けした両膝を両手で抱え、褐色の顔を引きつらせていた。
 横に座っているサリー・アンバーに言った。
「戦争の話はやめよう。僕たちのことを話そう」
 サリーが黒い瞳を妙にくりくりして、顔を向けて真面目に言った。
「そんな顔をしないで、ディック(訳注)。特にあなたは重要な部門に勤めている。からかっているんじゃない、本気よ。あなたの軍用細菌生物局がなければ、この国はどうなる? アジア連合の細菌で全滅させられる」
(訳注)ディックはリチャードの愛称
「確かに。もし敵側に細菌学者がいなければ、我々の細菌でやっつけられるのだが……。行き詰まりだよ、まったく、こんな戦争は。アラスカを見ろ。いま1年以上、敵将のカーンはアラスカ先端のロッキーポイントからエスペンバーグ岬までの狭い一角を支配しているが、我々はこの戦線を1ミリも動けないばかりか、敵も同様だ。両軍ともベッカリ電界で守られており、突破できない。
 アラスカは重要な鍵であり、そこにカーン本人がいる。敵のベッカリ電界を突破して、奴を殺しさえすれば、アジア連合全体が壊れるだろう。奴が居てこそ、元来は敵同士の連中、たとえばシベリア系ロシア人、ジャップ、中国人、タタール人などをまとめ上げられる。奴がいなければ、連中は数時間で互いの喉を掻き切るだろう」
「じゃあ、なぜ誰か何かしないの?」
 とサリーがいたずらっぽく訊いた。
「確かに試したさ。十数人の勇敢なアメリカ人が敵の前線を突破して、奴を暗殺しようとしたが、残念ながら捕まって、ひどい拷問を受けて、死んだ」
 サリーが震えて浜ゴザの一角を引っ張って、自分の肩に巻き付けて、
「そんなの勇敢じゃない」
「君の勇気とやらに賭けたいね」
「なぜアメリカは軍隊をアジアに上陸させないの?」
「君も知っての通り、アメリカが海を支配したのは、6ヶ月前にマリアナ諸島からカーン艦隊を全滅させてからだが、奴はアジアに1千万の兵士を抱えている。そんなところに我が5百万人を上陸させて、どうなる。駄目だ、狂人カーンはアラスカでなんとかして叩きつぶさねばならない」
 不意にサリーが言い切った。
「カーンは狂人じゃない」
「なんで知っているんだ」
「あ、あ、会ったことがある」
「アジアに行っていたとは知らなかったなあ」
「あなたの知らないことがいっぱいある。父が死んで、私は金持ちになった。あちこち旅行した。3年前は東都ハルビンに居たし、さらに西都モスクワにも行った」
「そうか、狂人カーンに会っ…

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