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炎の黎明
ほのおのれいめい
作品ID62681
副題怪奇シリーズその3
かいきシリーズそのさん
原題Dawn of Flame
著者ワインバウム スタンリー・G
翻訳者奥 増夫
文字遣い新字新仮名
初出1936年
入力者奥増夫
校正者
公開 / 更新2024-05-27 / 2024-05-18
長さの目安約 108 ページ(500字/頁で計算)

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本文より

登場人物
ワキン・スミス   ノーリンズの帝王
ブラック・マーゴ  マーガレット王女
レボー       王女の警護司令官
ソラ        王女の下女
ハル・タービッシュ 旅する男
マーケス      長老
ベイル       長老の娘
イナック      ベイルの恋人
マーティン     不老不死の発見者
ホランド      古語を解読
テラン       発電所を再起動
オーリン      アイナ・オーリン
コーマー      イオンビームを発見
ファイル      鍛冶屋
ジョーガンスン   王女の愛人

[#改ページ]

[#ページの左右中央]


 この物語で話されるマーガレット王女の会話はすべて一語残らず、186年アーブズ市で出版された『ブラック・フレームの恋』という作者不詳本から引用した。出処はブラック・フレームの警護司令官ジャック・レボー。


[#改ページ]

第1章 世の中
 ハル・タービッシュが後ろを振り向いたのはたった1回、それも曲がり角に差しかかったときだけだった。へばりつくような石小屋が長年の住まいであり、何千回も見飽き、杉の木の下にちょこんとある。
 母はまだ見送っている。2人の弟が山腹からじっと見下ろしている。ハルが別れの手を振って、おろした時はもう誰も見ていなかった。母は何事もなかったかのように扉に向かい、弟たちはウサギを追っかけている。
 ハルは前を向いてずんずん進み、坂を下り、オザキ村をあとにした。
 行路は古代文明の偉大な鉄路、今は錆びた2条の線路と朽ちた枕木が並んでいる。傍らには苔むす石が丘をなし、かつては古代の建物であり、それから暗黒世紀となり、当時のオザキ村は旧ミズリ州の一部だった。山の衆はあちこち四角い石を探し、かき集め、家を建てたが、さしもの鉄路金属は頑丈すぎて使えず、この3百年じわじわ錆びていった。
 事情はハル・タービッシュもよく知っている。というのも毎晩、囲炉裏端で語られていたからだ。古代文明人は強力な魔法使いであり、鉄路を全土に伸ばしたが、いたるところ廃墟になり、噂では魔術で重量物を持ち上げて作ったとか。
 麓の盆地では人々がまだそんな魔術を探しているとのこと。かつて馬乗りがタービッシュ家に泊まった時、この小男が言うに、はるか南方で秘密が見つかったが、それ以上、寡聞にして知らないという。
 こうしてハルは口笛を吹き、ずた袋を肩にかけ、弓を広い背中にゆったりくくり、てくてく歩いた。盆地を目当てに行く理由があった。世の中がどんなものか見たかった。
 ハルはじっとしておれる性分じゃない。タービッシュ家の6人の息子や3人の娘とは全く違っていた。一家は芯から山の民で、息子たちはマタギ、娘たちは愚鈍で働きものだった。ハルはしかし、兄弟のようにものぐさじゃなく、姉妹のように愚かじゃなく、活発で好奇心にあふれ、夢…

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