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プロテウス島
プロテウスとう |
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作品ID | 62682 |
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副題 | 怪奇シリーズその4 かいきシリーズそのよん |
原題 | PROTEUS ISLAND |
著者 | ワインバウム スタンリー・G Ⓦ |
翻訳者 | 奥 増夫 Ⓦ |
文字遣い | 新字新仮名 |
初出 | 1936年 |
入力者 | 奥増夫 |
校正者 | |
公開 / 更新 | 2024-06-25 / 2024-07-07 |
長さの目安 | 約 57 ページ(500字/頁で計算) |
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褐色のマオリ人がカヌーの舳先でオースチン島をキッと見据え、島にのろのろ近づいていた。そして後ろを振り向き、不安そうに茶色の瞳をカーバーに向けて叫んだ。
「立入禁止、立入禁止、島のタブーです」
カーバーは表情を変えずに見返した。顔をあげ、島を見た。
マオリ人は陰鬱な表情を漂わせ、こぎ始めた。もう一人のポリネシア人が動物学者のカーバーに嘆願するような目つきで、
「立入禁止、島のタブーです」
白人の男カーバーはちらっと見たが、何も言わなかった。マオリ人は茶色の両眼を力なく落とし、仕事に身を入れた。カーバーが陸の方にじっと見を凝らすと、マオリ人は互いに無言で意味深に目配せした。
カヌーは青い寄せ波に乗り、スカート状の島に向かっていたが、進路を外れ始め、あたかも近づきたくないかのよう。
白人のカーバーが大口で叫んだ。
「マロア、進め、この茶豚、進め、聞いてるのか」
カーバーが再び島を見た。オースチン島はとうの昔から未踏じゃないが、この原住民どもは何らかの理由で恐れている。動物学者カーバーは原因を調べる気などない。
島は無人島で、最近海図に載ったばかり。前方に見えるシダ林はニュージーランドそっくり。カウリ松、フタバガキのこんもりした森と、円弧状の白い砂浜だ。
と、森と砂浜の間に黒点が動いた。カーバーの考えではキーウィだ。
カヌーを慎重に岸に寄せた。
マロアはブツブツ言い続けている。
「立入禁止です。たくさんバニップがいます」
白人のカーバーが怒鳴り声で、応じた。
「上等だ。ジェイムスン等のいるマッコーリ島へは戻りたくないぜ。せめて小型バニップを1匹連れ戻らないと。いや何としても妖精を。学名はバニップ・カーバリスだ。悪くないだろ? 博物誌に写真付きでいいぞ」
浜辺に近づくと、キーウィは小走りで森の方へ逃げたが結局、キーウィだったかどうか……。少し変に見えたので、横眼で追った。当然キーウィに違いない。
ニュージーランド域の島々は動物相が乏しいので他にあり得ない。1種類の犬、1種類の鼠、2種類のコウモリ、これがニュージーランドの哺乳類すべてだ。
もちろん、外来種の猫や、豚やウサギが北島や中央島を我物顔に走り回っているが、この島はそうじゃない。
これらはオークランド諸島とマッコーリ島にもいないし、ましてここオースチン島はマッコーリ島と、不毛なバレニイ諸島との間にあり、孤海に隔絶し、南極端から遠く離れている。あり得ない。だから小走りの黒点はキーウィに違いない。
カヌーが接地した。舳先にいた褐色のコルが素早く浜辺に降りて、カヌーを寄せ波に乗せて引っ張った。
カーバーが立ち上がり一歩踏み出し、足をハッと止めたのは船尾にいたマロアがうめいたからだ。
「見てください、木、ワヒ、バニップ・ツリーです」
指差す方向をカーバーが見た。木がどうしたってんだ…